魅惑の未亡人

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 ボクは、乾燥しつつあるマヨネーズを笹かまぼこで拭って食べた。  千代さんの服が洗濯されていた理由もボクは分かった。 「玄関の鍵が開けっ放しだったのも、すべては犯人が仕組んだ罠だったんだ。洗濯された衣服は犯人の証拠隠滅。謎はすべて解けた」 「じゃあ、千代さんは殺されたのか。犯人は……」 「もう分かっただろ」 「それでどうする? 警察に言うのか?」 「まずは松本英恵さんに報告して相談する」  ボクは、笹かまぼこを食べ終わると松本英恵に電話を掛けた。 ***  照明を極限まで落としたオーセンティック・バー。かろうじて隣の人の顔が見える程度の明るさが特別な夜を演出する。  背中の大きく開いた赤いラウンドネックワンピースに赤いピンヒールを履いたリスは、いつも以上にセクシーに見える。  華奢な足元を演出するピンヒールは10㎝はありそうで、針のように細くて、踏まれたら絶対にケガするだろう。  リスがカクテルグラスを傾けると、微かな光が縁で反射しキラリ煌めく。  ボクはリスを見ている。  リスはその状況を分かって楽しんでいる。 「いつもこんな話ばかりだけど、面白い?」 「面白いわ。続きが気になる。千代さんはどうやって殺されたの?」 「犯人は、服を着たままで千代さんを水風呂に突き落として心臓発作を起こさせ、頭を押さえつけて水中に沈めて溺死させたんだ。それから服を脱がせて入浴中の事故を装った。濡れてしまった服は洗濯機で洗濯。濡れたままでは怪しまれるから。これが真相だ」 「で、犯人は誰なの?」 「博太郎。あの家の息子だった博太郎なら、信金マンが来るタイミングも行動も熟知している」 「でも、博太郎は旅行中だったんでしょ」 「ここまで分かれば、アリバイ崩しも簡単さ。お湯と水では死体の腐敗速度が全然違う。千代さんが亡くなったのは、前日じゃなかった。もっと前。最後に姿を見かけた日は三日前だと近所の人が何人も証言している。それから姿を誰も見ていない。博太郎は、旅行へ行く直前に千代さん宅を訪れて殺した。それが18日」 「本当に?」 「自分が旅行中に信金マンが発見するように鍵を開けておいた。そうすれば、ちょうど自分が沖縄に行っている間に発見される。あわよくば、信金マンに罪を擦り付けられると考えたんだ。あまりに時間が経っていつ死んだか分からなくなれば、動機から疑われてしまう。せっかく作ったアリバイも無駄になってしまうから」 「そういうことだったのね」 「もっとも、信金マンは通報しないで逃げ出したけどね」 「その理由はなんで?」 「外回り中にさぼっていたのが会社に知られるのが嫌だったから。彼はそれをとても後悔していた。散々世話になったのに、最後に裏切るようなことをしてしまったとね。墓前に謝罪に行くと言っていたよ」 「それは良い事だわ」  リスはほほ笑んだ。
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