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こうなったら、無理やりにでも食ってやると考えたこともあった。
中学3年生になった春、急にあいつの事を思い出した。給食センターに電話をかけてプリンを製造している会社を突き止め、製造会社に電話をした。
「おたくでプリンを取り扱っていますよね。給食に出すやつです。そのことについて聞きたいのですが」
「担当者に代わります」
電話口に出た女の人は機械的な声で言った。お待たせメロディの代わりに流れてくるのはこの会社で取り扱っている商品の説明だった。長い長い説明を聞かされていると不意に低い声が電話口から流れた。
「はい、給食のプリンについてという事ですが、どういったお話でしょうか」
電話口に出た男は淡々と言った。
「あの、中学校の給食で出されているプリン、どこかで売っていませんか。どうしても食べたいんです」
俺がそう言うと、男の声が少し大きくなり返って来た。
「そんなにあのプリンを気に入ってくれているんですか。ありがとうございます。しかし残念ながら、あのプリンは給食専用の商品です。あなたはどこの中学の生徒さんですか、良かったらお名前を」
嬉しそうな様子が電話口にも伝わって来て、俺は思わず電話を切った。
それから時は流れ、中学3年の冬、最後の決戦日がやって来た。絶対に負けられない最後の戦い。
このチャンスを逃せばもうこいつを食べる事はないだろう。俺はプリンを手に取った。その時だった。
「あっ」
隣から小さな声がした。女子がプリンを床に落としていた。食べようとして手を滑らせたのだろうか。彼女の視線は落ちてしまったプリンに注がれていた。彼女はクラスで三番目に可愛いかった。
「これ、いいよ」
俺は思わず、自分のプリンを彼女に差し出した。
「でも」
彼女は困った顔で俺を見つめた。
「女子って甘いもの好きなんだろ。いいよ、俺は甘いものそんなに食べないし」
「ありがとう」
彼女の笑顔を見た瞬間、俺の戦いは終わった。
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