この指動け!

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「第62回!ファイト・オブ・スマッシュⅢの世界大会決勝が今、始まろうとしております!」  会場が歓声で響き渡った。大人気格闘ゲームの世界大会となると、数万ある観客席が人で埋め尽くされていた。                    決勝進出を決めたプレイヤーは、日本の選手とアメリカの選手だ。  日本のプレイヤーは俺、テンゲン。  対する海外のプレイヤーは、エースという数々の戦績を収めているプレイヤーだ。  俺も日本の数々の会で優勝しているが、エースは世界で活躍している。格上に違いないが、今回は絶対に負けるわけにはいかない。  ゲームに否定的な父親がこの試合を見に来ているんだ、勝たなきゃ顔向けできない。 「それでは、選手入場です!まずは日本の大会でトップ争い常連、テンゲン選手!」  ステージへ向かうと、盛大な歓声が響き渡った。  この中には、幾度となく戦ってきた仲間やライバル達、そして父親もいる。例えエースだろうと勝って見せるさ。 「対する対戦相手はこちら!世界大会では優勝候補筆頭!この大会3連覇中のまさにナンバーワン!エース選手だ!」  先ほどまでの歓声とはまるで違う、盛大な拍手で迎えられた。  一目みた瞬間に武者震いがした、迫力からして違いすぎる。 「今日はよろしくお願いします、エース選手」 「こちらこそよろしくテンゲン。日本のお土産が和菓子だけじゃ彼女に申し訳ないからね。全力で勝たせてもらうよ」 「それでは両者、準備をお願いします!」  椅子に座り、ヘッドホンをつけた瞬間、自然と緊張はほどけた。  それはエースも同じだろう。緊張していないようだが、椅子に座った瞬間、さわやかな顔が、プレイヤーの真剣な顔つきになった。  その存在感はびしびしと伝わってくる。  勝負が始まる十秒前、俺もエースも全身に力がこもる。  READY FIGHT!  画面に戦いの合図が表示された瞬間、俺は瞬時に距離を取った。  エースは近距離での戦闘が得意なキャラクターで、間合いに入られるとあっという間にコンボを決められてしまう。  初撃の攻撃を交わし、すぐさまカウンターを入れるがガードされてしまった。ガードには上ガードと下ガードがあり、追撃で下攻撃を繰り出すがそれもガードされた。  距離をとるため下がろうとした隙をつかれ、エースは瞬時に必殺技のコマンドを入力し、ガードできず大ダメージを食らってしまった。  追撃しようとエースが近づいてくるが、間一髪起き上がり下攻撃を入れた。エースがひるんだ隙に下攻撃、上攻撃、上攻撃からの必殺コマンドを繰り出す。エースの体力ゲージを七割近く削れ、距離を取り遠距離攻撃のコマンドを入力し発動。そのままエースにヒットして第1ラウンドを勝利した。 「よし!」 「やるねテンゲン。だけど、次もうまくいくとは思わないことだね」  第1ラウンドを取れたのはいい傾向だ。  この大会の決勝は5ラウンドの3回先取。俺は後二ラウンド選手で優勝だ。  すぐに第2ラウンド開始のカウントダウンが鳴る。  落ち着いていけば勝てる、そう確信した第二ラウンド。  結果は一度も攻撃をヒットできず惨敗。  開始直後、すぐに接近されコンボを決められ即死した。 「な……」 「よかった、綺麗に決まったね」  観客からの歓声がエースへ降り注ぐ。それほど綺麗にコンボを決められたんだ。 「この調子で次のラウンドも頂くよテンゲン」 「そう上手くいかせるかよ」  第3ラウンド開始後、距離を取らずエースの方へジャンプした。空中攻撃を入れてコンボをつなげる作戦だが、エースは読んでいたようにガードしてカウンターを入れられた。空中攻撃はコンボをつなげやすい分、ガードされるとキャラクターによっては隙ができてしまう。そこを突かれてしまった。  コンボをつなげられる直前、なんとかガード入力が間に合い大ダメージは免れた。  だがエースは追撃をやめず、ガードと攻撃の読みあい。近距離性能の高いエースが有利で押し負けてしまい。必殺技を受けて第3ラウンドを奪われた。  エースに勝てるビジョンが全く浮かばない。第1ラウンドとは違い、コマンド入力の速さから動きのキレまでまるで別人だった。第4ラウンド開始のカウントダウンが鳴り始め、顔から汗が滴る。  すると、観客席から聞き覚えのある叫び声がした。 「テンゲン!!頑張らんか!」 「と、父さん!?」  バカでかい声で声援を送ってくれたのは、一番この試合を見せたかった父親だった。 「何を悲しそうにしとるか!ゲームが好きなんだろう、なら楽しく遊ばんか!」  すぅ、と何かすっきりした感じがする。 あんなにゲームのことを好ましく思っていなかった父親から、楽しく遊べなんて怒られるとは。 「いいパパじゃないかテンゲン」 「ああ、本当にな。これじゃもっと負けられないじゃないか」  少し気持ちが軽くなった。第4ラウンド開始の文字が画面に出た瞬間、必殺コマンドを入力する。  短いコマンドの必殺技なら、エースの初撃に間に合う。  ギリギリで入力が間に合い、空中攻撃のモーション中のエースにヒットした。  そこから追撃をエースの高速コマンドで相殺されるが、遠距離で攻撃したため、こちらの方が有利となった。エースが距離をつめてくる前に、長い必殺コマンドを打ち込んだ。  間に合わないかもしれないが、勝負に出るにはここしかない。  エースの攻撃が当たろうとする直前、コマンドが反映され必殺技を繰り出した。  まともに食らったエースは一撃で体力ゲージが消失し、第4ラウンドを勝ち取った。 「あんな長いコマンドを即時に……、すごいやテンゲン!」 「エースこそ、紙一重だったよ」 「正直、日本には観光気分で来たけど、ここまで楽しい試合ができるなんて思ってなかったよ。ありがとうテンゲン。さあ、ファイナルラウンドだ!」 「望むところ!」  この日の試合を、俺は一生忘れないだろう。  エースとの試合は、俺の人生で1番楽しく意味があった。 父さんにもいい試合を見せられたと思うから。 これからも俺は、楽しくゲームを遊んでいくんだ。
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