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エレベーターに乗り指示された22階に到着すると、すぐ目の前に「『晩餐』打ち合わせ会場」の表記が見えた。
外から見る限りでは、会議所にしてはかなり広いスペースのように思えた。顔合わせの時間まであと10分という時間まで迫っているにもかかわらず、辺りは静寂に包まれており人気が感じられなかった。
――本当にここで合ってるんだよな…?
俺は少々疑心暗鬼になりながらも、扉の真横に立てられた看板の表記を信じ、ゆっくりと会場の扉を押し開けた。
「え?なんだよ…」
ところが、中に入ってみると人はおろか、電気すらも点いていない状況だった。
――騙された。
咄嗟にそう思い、肩を落として会場に背を向けた。
最悪だ。期待し、勝手に胸を躍らせた俺が馬鹿だった、と自分を嘲笑した。
その時だった。
突然、パッと会場の全照明が点灯した。俺はあまりの眩しさに、瞬時に自分の腕で目を庇った。
「せーの!」
――パンッ!!
誰かの合図の声に続いて衝撃音のような音が聞こえ、驚いた俺は尻もちをついてしまった。
何が起こっているのか確認しようと恐る恐る顔を上げると、キラキラと輝かしく舞う紙吹雪と共に、実和監督を筆頭にした『晩餐』の制作陣や出演キャストたちがケラケラと笑っているのが見えた。
「樹、オールアップ&主演、おめでとう!!」
サプラーイズ!と実和監督は、ワイングラスを片手に陽気に俺の元に駆け寄った。
「え…なんですかこれは…」
驚きのあまり腰を抜かし、事態を把握しきれていない俺を引っ張り上げ彼女は笑った。
「ちょっとちょっと!そこまで良い反応してくれるなんて思わなかったわ…!この私が、昨日の黒薔薇だけでサプライズを終わらせると思って?」
やられた、と頭を抱え、俺は肩を震わせ笑った。
彼女のオーバーな演出はまだ続いていたのか…
改めておめでとう、と実和監督は手に持っていた赤ワインが注がれたグラスを俺に手渡した。
「二日間に渡りどうもありがとうございます…」
「いいえ~こちらこそ!主演決めてくれてありがとね」
俺のためにここまでしてくれる人なんてなかなかいないだろう。実和監督たちの心からのサプライズに喜びの感情と、これから制作に携わる作品への期待がますます高ぶった。
俺は、その場にいたスタッフの方やこれから共演するキャスト陣にもお礼を述べ、用意されていた席についた。
「それでは、樹のオールアップを祝し、『晩餐』の成功を祈って…乾杯!」
「乾杯!!」
実和監督の音頭で俺たちはグラスを重ね合わせた。
ああ、やっぱりどのみちこの人の作品に関わると会議でもお酒は入るんだな、としみじみ考えながら俺は満たされた気持ちで頬が緩むのを抑えられずにいた。
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