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Episode 1
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備忘録を書く手を止め、ふうっと一つ大きなため息をついた。こんなに幸せなため息なんか出るのは久しぶりだ。俺は今にも鼻歌を歌い出してしまいそうなほどに舞い上がっていた。33歳にもなって恥ずかしいのだが、クリスマス前夜のプレゼントを待つ子供のあのワクワク感に似たような感覚に陥っている。
ありきたりな話だが、俺は恋に落ちてしまった。
恋愛という恋愛なんて、いつぶりだろう。いや、そもそも恋愛感情なんて抱いたことが今までにあっただろうか。とにかく、言い寄られたら付き合う。気に入らなかったら別れる。このサイクルをひたすらに繰り返していたからな…。
世間一般からみると、確実に屑のような恋愛事情だ。しかし、俺が働いているこの「芸能」の業界では、このようなことは決して稀ではない。一度共演した俳優と女優が付き合ったり別れたりのこの世界だ。当たり前と言い切っても過言ではないだろう。
そんな環境で俺は約20年、俳優として子役時代から働いてきた。今までに共演し、W主演を果たした女優たちとはそのような関係に何度となく陥ったが、一度たりとも本気になんてなれやしなかった。この業界の女は皆が皆、同じように俺の目には映っていたんだ。姿、形、性格まで…何もかもが同じに見えた。唯一違うところを挙げるとすれば、胸のサイズぐらいだろう。何故芸能の女は星の数ほどいるのに、誰一人として代わり映えしないのだろうか。
しかし、その長年の疑問は突然に終止符を打った。
それは、3日前の仕事での出来事だった。自分で言うのもなんだけど、俳優業を順風満帆にこなしてきた俺は新たに映画の主演を依頼された。今撮り終わったばかりのドラマが落ち着いたら、少し休暇をもらって海外へ旅行にでも行こうと思っていたけれど、俺が子役になるきっかけとなるスカウトをしてくれた稲山剛志監督の娘さん、稲山実和監督からの依頼だったので、押し切られてしまい断るすべもなく受け入れてしまった。
今思えば、その依頼を承諾していなかったら死ぬほど後悔していただろう。
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