Episode 2

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♢ 記録3:2018年6月2日(土):スペイン遠征8日目。初めてのサシ飲み  随分飲んだ。調子に乗って久しぶりに酒を浴びるように飲んだ。…少し頭が痛い。けれど、この痛みすら今は愛おしく思えるほど幸せな時間だった。アユちゃんもかなり酔っ払って、二人で千鳥足になりながらその場の流れで肩を組み、陽気に歌を歌いながらホテルに戻った。冷たい水を飲み、少し酔いが醒め冷静になった今、この光景を誰かに見られてはいなかっただろうかと少し不安になるが、そんなことはもうどうでもいい。眠たくなってきた。この幸せな気持ちのまま眠りにつくことにする… ♢ 記録4:2018年6月5日(火):スペイン遠征11日目。悶々(もんもん)。  アユちゃんとは毎日メールのやり取りをしている。しかし、最近撮影現場では俺とあまり口をきいてくれない。そればかりか、最近ずっと松川とばかりくっついている様な気がする。イライラする。それでも、ひとたび現場に入れば俺は「俳優」。彼女の恋人役をうまく演じて退けなければならない。理性を抑えるよう努めるが、そう簡単にはいかない。「恋心、嫉妬、それから憎悪…この三つの感情に踊らされてはいけない」…監督、本当にその通りだと思う。でもどうすれば… ♢ 記録5:2018年6月22日(金):スペイン遠征最終日。  ついにスペインでの撮影の全日程が終了した。打ち上げの席でもやっぱりアユちゃんは俺を避けていた気がする。そして、心なしか彼女の明るい笑顔も日を追うごとに少しずつ消えていっているように思える。それが妙に心に引っかかって、先程、どうしたの?とメールを送ってみたものの返事は「大丈夫です」の一言だけ。悩みがあるのなら話してほしい。ましてや原因が俺にあるのなら尚更。  明日帰国し、明後日から約一週間ほど台本を読み覚える猶予期間が与えられる。スタジオでの撮影が始まるまでの2週間弱も彼女に会えなくなる。胸にぽっかりと穴が開いたような気分だ。  明日は始発の便で日本に帰る。朝も早いし酒でも飲んで寝ることにする。 ♢
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