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「松川とアユちゃんが交際しているのは、当然知っているわよね?」
「え…あっ、まあ…はい…」
知っている、というよりは察していたのだ。二人が付き合っているのではないか、という俺のほぼ断定に近かった「憶測」は、監督の一言によってあっけなく紛れもない「事実」へと変わってしまった。
「それのどこが…」
「やだ、何勝手に凹んでんの!!まだ話はこれからよ!」
声色だけでも俺の気持ちを汲み取ったのか、監督はさも面白そうに笑った。
「…でね、ここからが本題。その二人なんだけど、どうやら上手くいってないみたいなのよ」
「えっ!?」
予想だにしなかった言葉に俺は愕然とした。
おかしい。二人は撮影の合間もずっと一緒に居て、現場に入る時も帰る時もくっついて離れたところなどあまり見たことがなかった。
「ふふ、びっくりした?実は今日の帰りにアユちゃんとご飯に行ってきてね、直接聞いたのよ。…でも、どうしてかは教えてくれなかった」
「直接!?どうしてわざわざそんなこと…!」
驚きを隠せずにいると、受話器の向こうで監督は静かに笑った。
「樹のためよ」
「え…俺のため…?」
「だって~、最近アンタたちやつれまくってるじゃないの。カメラ越しでも分かるのよ。見苦しいったらありゃしない」
メイクさんからも顔色悪くて隠すのが大変って苦情来てるんだからね、と監督は冗談交じりに言った。
「それにね、辛いのはアンタだけだと思ってるかもしれないけれど…アユちゃんだって色々悩んでいるのよ」
「…そうですか」
悩んでいる。そうは言ってもどうせ俺のことで悩んでいるわけではないだろう。他人事のように考えていると、監督は更に話を続けた。
「あと二つ目の報告ね。これは、どう動くかはアンタ次第かな…でも、樹にとってはチャンスになるかも」
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