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―― 2018年10月25日(木)――
あれから、高揚でなかなか寝付けず寝不足のまま朝を迎えた。マネージャーの平塚に早めに車を出してもらい、集合時間よりも1時間早めに余裕をもってスタジオに入った。
メイク担当スタッフにちゃんと睡眠を取りなさい、と説教をされながらヘア・メイク共に済ませ、楽屋で衣装に着替えて撮影スタジオへと続く長い廊下を軽い足取りで歩き始めた。
予定時刻よりもかなり早い時間のインなんて、随分とご無沙汰だ。流石に鮎川はまだ来ていないはずだろう。
今日の撮影が楽しみである反面、俺には少し不安な気持ちもあった。
もし…今日もいつものように顔を背けられたらどうしよう。口を聞いてくれるだろうか。あの時のように――――
鮎川のことを考えると、どうしても弱気になってしまう。
だが、そんなことを考えていたって仕方がない。
どうしてもマイナス思考に傾いてしまう俺の脳味噌を覚ますため、強めの力で両頬をペチペチと叩いた。
そんなことをしているうちに、気がつけばスタジオの扉が目の前に姿を現した。
大丈夫。いつも通り。いつも通り…
頭の中で何度も何度も唱えた。
心を落ち着け、よし、と意気込み俺はスタジオの扉を思いっきり押し開けた。
「おはようございます」
扉をゆっくりと締めながら挨拶をすると、中から数名の挨拶を返す声が聞こえてきた。
――やっぱりまだ、来ていないか。
少しだけガッカリしながらも、どこかでホッとしている自分が情けなかった。
撮影開始まではあと20分も時間があった。ふとカメラ陣が固まって打ち合わせをしている方に目をやると、そこに都築の姿が見えた。
丁度いい。暇つぶしに使ってやろう。
そう考え、映画カメラのセッティングに近づこうと一歩足を進めた時だった。
「宇治さん……!!」
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