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それは、すっかり聞き慣れたはずなのにどこか懐かしい声だった。
咄嗟に振り向くと、今にも泣き出してしまいそうな表情を浮かべた鮎川がそこに立っていた。
「アユちゃん…!!」
すかさず名前を呼び返すと、鮎川はこちらへ駆け足でやって来て、飛び込むような形で俺の腰に思いっきり抱き着いてきた。
「えっ…ちょ、アユちゃん!?どうしたの…!?」
唐突すぎる出来事に頭が追いつかない。慌てて鮎川の顔を覗き込むと、すっかりやつれて窪んでしまった彼女の瞳から綺麗な涙が止め処なく流れ、頬に幾つもの筋を作っていた。
「ごめんなさい…本当にごめんなさい…!!」
咽び泣き、震えた声で鮎川は何度も何度も俺に謝った。
「いいんだよ。俺の方こそ、何もしてやれなくて…ずっと一緒にいたのに何も気付いてあげられなくてごめんね」
鮎川の頭にぽんと優しく手を置き、俺は周りの視線など目もくれず、今にも壊れてしまいそうなほどすっかり弱ってしまった彼女を更に強く抱き寄せた。
「…本当は、ずっとお話したかった。宇治さんと一緒にいる時間が本当に楽しくて…毎日夢を見ているようだった…」
鮎川はしゃくり上げながらも更に言葉を続けた。
「なのに…それなのに…今まで失礼な態度を取ってしまって…本当にごめんなさい…っ」
「俺ならもう大丈夫だから、もう謝らないで。でも…そのかわり、一つだけ聞きたい。どうして今まで俺を避けていたの?」
ずっと抱いていた疑問を率直に鮎川にぶつけると、彼女は更に瞳に涙を溜め嗚咽を漏らした。
「宇治さんの事を避けてしまっていたのは…確かに意図的なものでした。でも…でも…っ…私じゃ…ないんです…っ…分かってください…!」
「えっ…?」
訳が分からず戸惑っていると、涙で充血した鮎川の瞳が何かを訴えかけるかのように俺をじっと見つめた。
「…助けて…っ…助けて…ください…!!」
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