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「どういう…こと?」
恐る恐る尋ねると、鮎川は申し訳なさそうに俺の目を見つめた。
「…実は、スペインで宇治さんと飲みに行った日にはもう…私たちは既に付き合っていました」
「えっ…」
次々と舞い込む衝撃的な事実に、俺は頭が追いつかなかった。
「隠していてごめんなさい。どうしても宇治さんには知られたくなかったの…」
「それはいいんだ。でも、どうして…?」
理由を尋ねてみるも、鮎川はそれだけは一切口を割ろうとはしなかった。
「…とにかく、あの日の時点で私たちの関係は始まっていました。だからあの時、待ち合わせもホテルからじゃなくて現地にしてもらったんです」
「なるほど…」
後から考えれば、確かに辻褄が合うところがいくつかあった。
心に引っかかっていた悶々としたものが、次々と解けていくような気がした。
しかし、俺にはまだ引っかかっていることがあった。
「…でも、帰りはホテルまで一緒だったよね?それは良かったの?」
俺が尋ねると、鮎川は一瞬はっとしたような表情を浮かべた。
どうやら何か心当たりがあるようだ。
「それが、原因だったのかも…」
鮎川がボソリと呟くと、彼女は再び俺に謝罪を始めた。
「ごめんなさい。きっとあの日、何処かから見られていたんだと思います…思い返せば、その次の日にあの人が宇治さんとは必要以上に話すな、不用意に近づいたら…って、私に…」
「そういうことだったのか…!」
鮎川が俺を避けていたのは、俺に落ち度があったからというわけではなかった。
本人の口から聞いた紛れもないその事実に安堵する一方で、俺は鮎川の身がますます心配になった。
俺にできることは―――――
色々と考えた末、俺は心に決めた。
「俺、話してみるよ。松川と」
「えっ…で、でもそれじゃあ宇治さんが…!!」
「大丈夫だよ。松川は子役の頃からの付き合いだし、こう見えて唯一の同期と言ってもいいほどの仲だからね…それじゃあ、そろそろ行こうか」
少しばかり格好をつけて鮎川の頭をぽんぽんと優しく撫でると、俺は撮影陣のいる方へ戻った。
一時は諦めようと思った。離れようと思った。
それでも、そんな事などできなかった。
だから俺は…
全てに片が付いたら、俺は必ず鮎川に気持ちを伝える。
どう転んでも、俺が絶対にアイツから鮎川を守る。
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