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「でさ、樹は今日オールアップなわけでしょ?はい来た、ナイスタイミング~!ってことでね、今回もぜひ主演を…」
「お断りします。このあと長期休暇取ってハワイに行くので」
実和監督の言葉を待たずに、俺は全く出る意思がないことを少し強めに主張した。
「仕事のオファーをしてるのにまぁ贅沢な。ハワイ?そんなに行きたいなら、この映画の舞台ハワイにしちゃおっか?」
ロケ地、スペインの予定だったんだけどなぁ~と彼女は呑気に呟いた。
「あの、仕事でハワイに行きたい訳じゃないので…ほんと、勘弁してください」
「イッちゃん、そこを何とか~~~」
「その呼び方はやめてください」
こんな交渉が30分ほど延々と続いた。俺がいくら断っても全く引いてくれないし、寧ろ俺に利益があるようなことばかり吹っ掛けてきて、挙句の果てに断ったら稲山監督に言いつけて今後の仕事を減らしてもらうだなんて言い出すもんだから、もう断る由もなかった。
「…今回だけですよ。受けます、このオファー」
「ほんと!?良かった、ありがとう~~助かるわ!もうこの作品をプロデュースする時から絶対に主演はアンタじゃなきゃダメだって思ってたの。てか、そうするしかないって決めてたんだよね」
「そう思ってもらえるのは凄く光栄だし、本当にありがたいですけど…」
「報酬は弾むわよ~~たんまりと」
「じゃあ連れてってくださいよ、ハワイ。俺の楽しみを奪った利子として」
「それは自分で行きな!」
こんな調子で暫く何の変哲もない有り触れた会話をしていると、急に実和監督の目つきがガラリと変わった。所謂、仕事モードの目つきだった。
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