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今日も何の問題も無く、予定通り撮影を終わらせることができた。
ただ、普段と少し違ったのは演技の中での鮎川の表情や声色だった。これまでは、演技の中ではしっかりと役柄を守りながらも、どこか陰りのある表情を見せることが多かった鮎川。しかし、俺に全てを話して清々しくなったのか、今日の彼女の演技は本物に限りなく近いものだった。
彼女の心からの笑顔を、一刻も早く取り戻したい。
そう思った俺は、仕事用のスマートフォンを片手に足早にスタジオを出て行った。
スタジオの外へ出ると、鮎川が監督と二人で和気藹々と話をしていた。
二人は俺の姿に気がつくと、顔を見合わせて笑った。何を話しているのか非常に気になったが、構わずにヒラヒラと手を振ってその場を通り過ぎ去ろうとした。
「こら樹!待ちなさい!!」
瞬間、監督に腕を軽く引かれ、俺は呆気なくその場に加わった。
「お疲れ〜っ!今日の演技とっても良かったわよ」
「あ、ありがとうございます…じゃあ、俺急いでるんで…」
二人に軽く挨拶をし、逸る足を進めようとした。
「あっ、待ってください!!」
すると今度は鮎川に引き止められた。
「宇治さん、今日は本当にありがとうございました。宇治さんに話さなければきっといつまでも一人で苦しんでいたと思う…」
「いやいや、そんな…でも、まだこれからだよ。俺がなんとかしてあげるから、ね?」
「そうですよね。…私も頼ってばかりいるようじゃ、だめですね。すみません。私も頑張ります」
そう言った鮎川の顔色が少しずつ青ざめていくのがわかった。
本当は、きっと行動を起こすのが怖いのだろう。当たり前だ。
「無理はしちゃダメだよ。俺に任せてくれて大丈夫だから」
「宇治さん…ありがとう」
鮎川は俺の両手を取り、ぎゅうっと力を込めて握りしめた。
「あらあら、どうやら私お邪魔のようね?」
その様子を終始見守っていた監督は、ニヤニヤと笑みを浮かべながらわざとらしく俺たちから後退りをした。
「なっ、何言ってるんですか!…とにかく、俺は今から松川と連絡を取ってみるよ。アユちゃん、しつこいようだけど絶対に無理だけはしないでね。約束できる?」
「は…はい、約束…します…!」
「よし。それじゃあ、俺は行くよ!また明日」
俺は鮎川に握り締められた両手をそっと解き、二人に見送られスタジオを後にした。
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