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スタジオの外へ出ると、秋の冷たい夜風が俺を包み込んだ。
肌寒さを覚え、身体中がガチガチと震え出す。
少し悴んでしまった指でなんとかスマホの連絡帳を漁り、一心不乱にあいつの名前を探し始めた。
「あった…!」
松川の名前を見つけ、俺は迷わず発信ボタンを押した。
なるべく人目のつかないところを探し、俺はスタジオのビルの向かい側の薄暗い路地裏に入り込んだ。
―――「もしもし?」
意外にも松川は2コール目にも入らないうちに電話に出た。
「もしもし、松川か?俺だ、宇治だ。突然ごめん、ちょっとお前に話したいことがあってな。…今から出てこれないか?」
「お〜宇治…え?今から?別にいいけど…随分急だな」
「悪いな、どうしても今すぐに話したいんだ。場所はお前に任せるから…頼む」
「わかった。今撮影が終わったんだろ?じゃあ、スタジオの近くにあるショットバーなんかどう?ずっと気になってたんだよな〜あの店…久々に一杯やろうぜ!」
「了解。…すぐ来れるか?」
「おう、あと30分もあれば余裕」
「それじゃあそれぐらいに中で落ち合おう。じゃあ後で」
それだけ伝えると俺は一方的に電話を切った。
正直なところ、今の状況であいつと酒なんて飲めるような精神状態ではなかった。
しかし、ここで承諾しなければおそらくあいつは何を言っても出て来ないだろう。
松川は「夜という存在は酒を飲むためだけにある」という謎の迷言を残すほどの酒好きなのだ。
それに、全ては鮎川の為だ。
俺は息をついて、指定された店へと向かった。
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