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カウンターの隅の席を二つ確保し、バーボンの二杯目をおかわりしようとした頃に松川は陽気に手を振りながらやってきた。
「おっす〜!待たせたな…ってなんだよ、もう飲んでんのか?マスター、俺にも同じやつを!」
俺の立場や状況など一切知らない、また察しもしない松川は呑気に俺の隣の空けておいた席に腰掛けた。
それでもずっと黙ったままでいると、漸くただならぬ雰囲気に気がついたのか、松川はふっと笑みを消し深妙な面持ちを浮かべた。
「なんだよ、お前から誘ってきたくせにシケた顔しやがって。だんまりだな。…そういや、俺に話があるって言ってたよな、あれ何の話なんだ?」
意外にも松川側から話を振ってきた。
さっさと終わらせてやろうと俺は口を開く。
「単刀直入に聞く。松川、お前今アユちゃんと付き合ってるんだよな?」
声が震えた。
鮎川の気持ちを知っていながらも、この事実を未だに飲み込める勇気が俺には無かった。
それでも俺は松川の瞳を真っ直ぐに見つめた。
すると、松川はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに目を輝かせ、意地らしく歯を見せて笑った。
「あ〜、ついにお前にもバレちゃったか!…へへ、そうなんだよ。報告遅くなってごめんな!」
随分鼻につく松川の物言いに苛立ちを覚えながらも、俺は平静を保とうと必死だった。怒りに震える手でギュッと力強く握り拳を作り、深く肩で息をした。
「そうか。それは良かったな」
なんとか返答を絞り出し、俺は松川に愛想笑いを作って見せた。
…しかし、冷静でいられるのもほんの束の間だった。
「だろ〜?しかも、唯音の方から告ってきたんだぜ!俺のことが好きで好きで堪らない…ってさ!!俺ってマジで勝ち組だよな!!」
松川のこの一言で俺の堪忍袋の緒がぷつりと切れ弾けた。
「嘘つけ…!!!」
俺は飲んでいたバーボンのグラスをダン!と大きな音を立ててテーブルに叩きつけ、松川が着ているYシャツの襟元を強く引っ張り上げた。
空腹の胃袋に流し込んだ酒が回ってきている。
それと同時に俺の頭にみるみる血が昇っていくのがわかった。
その様子を窺いながらバーカウンターの奥の方から、申し訳なさそうにマスターが松川のオーダーしたグラスを持ってきてテーブルにそっと置くと、何も言わずそそくさと逃げるように戻っていった。
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