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「痛ぇ…」
松川からの一撃と、飛ばされた衝撃で俺はすっかり動けなくなってしまった。
そんな俺に一歩一歩ゆっくりと松川が歩み寄ってくる。
「…宇治、お前が鈍いのは知ってたぜ。でも、本当に知らないんだな」
「何の話だ…!!」
窓の外を見つめ、涙を不器用に服の袖でクイッと拭うと松川は意味深に呟いた。
俺は恐る恐る下から松川の顔を覗き込むと、松川の口角は妖しく上がっていた。
「まぁいい…とにかく俺はお前のことが嫌いなんだよ。本当ならここで…」
そこまで言うと、松川は何処からかポケットナイフを取り出し、俺の首元に突きつけた。
「お前を殺してやっても、いいぐらいには…なァ?」
「や…やめろ…!!」
俺は慌てて松川を振り切り、未だにジワジワと痛む腹を抱えながらゆっくりと立ち上がった。
「フ…ハハハハハッ!!なぁおい、冗談だよジョーダン!!ビビってんじゃねぇよ」
いつの間にかBGMが消え、すっかり静まり返ったバー店内に劈くほどの松川の高笑いが響き渡る。
そして暫くの沈黙ののち、松川が口を開いた。
「なぁ宇治。お前さぁ…唯音のこと、好きだろ」
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