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バーの外に出て、誰もいない長い長いアスファルトの歩道をひたすらに走った。
松川の足は速く、とてもじゃないけど追いつけそうにはなかった。
「松川!どこに行くんだ!答えろ!!」
ぜいぜいと弾む息を深く呼吸をし整えながら、遠く先を走っていく松川に向かって俺は叫んだ。
すると、松川は一瞬立ち止まりこちらを振り返った。
「こ…ら…くん………と」
松川が遠くでこちらに向かって何かを言っているが、うまく聞き取れない。
「聞こえないぞ!何だって!?」
もう一度聞き取れるように言ってくれ、とジェスチャーを使って松川に伝える。
すると今度ははっきりと、その言葉が俺の耳に届いた。
「 これから 逝くんだよ 唯音と 」
そう言い残すと、松川は近くに停めてあったシルバーの自家用車――おそらく松川の所有車だろう――に乗り込み、南の方へと向かって行った。
――くそっ、逃げられた…
どうにかしてアイツを止めなければ。アイツは酒を飲んでいる上にすっかり気が狂ってしまっている。そのまま車を運転してしまうなんて…
俺の知っている松川とはまるで違う。このまま放っておくとアイツは?鮎川はどうなる…?
頭の中がぐるぐると渦を巻き始め、すっかり混乱してしまった。
窮地に陥ってしまったその時、目の前にタイミングよく一台のタクシーを見つけた。
俺は大慌てでこちらに向かって走ってくる空車のタクシーを捕まえ、松川の乗った車を追うよう指示した。
タクシーに乗り込み一息ついて冷静になり、松川が言ったこと、そして松川が今からやらんとすることを全て理解した俺は恐怖のあまり全身にびっちりと鳥肌が立ち、ガタガタと一人で震えていた。
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