Episode 3

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 タクシーの助手席から前方を見ていると、松川が運転する車は蛇行運転を繰り返していた。  当然だ。アイツは酒を飲みかなり酔っ払った状態で車に乗っている。  少し心配になりながら車の行先を見守っていると、隣で運転してくれている初老の優しそうな運転手さんに声をかけられた。 「お兄さん、ひょっとして刑事さんかいね?…いや、なんとなく。今追っている車、間違いなく飲酒運転だねぇ。この頃はよくいるもんでねぇ…ハハハ」 「は、はぁ…そうなんですね」  呑気に笑っている場合ではないが、ここは一応合わせて笑っておいた。  そんな調子で松川の後を追っていたが、幾つもの交差点が交わる多差路に差し掛かった時、一瞬にして忽然(こつぜん)と松川の車が姿を消した。  …どうやら、この複雑な造りの交差点を利用してうまく巻かれ、見失ってしまったようだ。 「まずい!!」  ガックリと肩を落とし、これからどうしようかと一人頭を抱え込んだ。  その時だった。  突然視界に強烈な赤い光が差し込み、甲高いサイレンの音が右側の交差点から聞こえてきた。  …警察だ!! 「そこのシルバーの自動車、すぐに止まりなさい。直ちに角に停めなさい」  スピーカーから少しノイズの入った警察官の声が響き渡った。  それを聞いた俺はすかさず運転手さんを揺さぶった。 「お願いします!!あのパトカーを追ってください。大変なんです…!!お願いします、急いで!!」 「は、はいはい…承知しました…」  運転手さんはかなり戸惑っている様子だが、松川の車とその後につくパトカーを追ってくれた。  緊迫した雰囲気に焦りを感じたのか、乗っているタクシーのスピードが心なしか先ほどよりも随分上がっているような気さえした。
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