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程なくして住宅街に入ったところで、パトカーが急停車をした。どうやら松川は目的地に着いてしまったらしい。
タクシーの運転手さんに心から感謝をし、騒がせてすまなかったと一言謝罪を述べ、手間賃として余分に出たお釣りを取っておくよう伝えると、俺はタクシーから降りて外を確認した。
パトカーが停まっているちょうど正面に建っている一軒家の表札を見てみると、そこには「鮎川」と書かれている。間違いなくあの鮎川の家だ。
どうやら松川は警察を無理矢理振り切って鮎川の家の中へと入っていってしまったようで、鮎川の家の前では警察官二人が腕組みをして困っていた。
「はぁ…家の中にまで逃げ込まれるなんてよ。情けねぇな俺たち」
「本当だよ〜…どうする?いっそのこと見逃して戻っちゃおっか!?」
「阿呆か!何バカなこと言ってんだ!!このご時世、ありふれたことになってきているかもしれんが、飲酒運転だって立派な犯罪だぞ!!俺は出てくるまでここで待ってやる!!」
「ひぇぇ…わ、わかったよ…そうしよう…」
強面の警察官と、か弱そうな警察官二人は何やら揉めているようだったが、のんびりしている暇など皆無だ。
俺は気にも留めず、二人の間を割り込んだ。
「あの…すみません、今この家に男の人が入っていきませんでしたか…?ネイビーのYシャツを着た男です」
唐突に話しかけてきた俺に対して、警察官二人は一瞬怪訝な顔つきを浮かべたが、すぐに頷いてくれた。
「あぁ、入っていったさ。あの野郎、酒飲んでフラフラな運転しやがって…」
強面の警察官はそこまで言うと、俺の顔を見るなり、目が飛び出んばかりに目をカッと見開いた。
「って、あれ!?君、どっかで見たことある顔だと思ったら…俳優の宇治樹じゃないか…!?」
「へ!?マジっすか!?」
その言葉を受けて、か弱そうな警察官の方も目をギラギラに輝かせて俺の顔を隅から隅まで舐めるように見つめ回した。
「本物だ!!スッゲェ!!」
「夜勤に出ると、こんないいことがあるもんなんだな」
俺の正体をさらりと見破った二人は、警察官とは思えないほど呑気に俺の手を取り、ブンブンと握手をしてきた。
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