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握手をしながら警察官二人は俺に名乗った。
強面の警察官は野田、か弱そうな警察官は樋口というらしい。
「あの…すごく有難いんですけど、今それどころではなくて…」
対応に困り果てて優しく二人の手を離すと、みるみるうちに二人の表情は険しいものへと移り変わった。
「何かお困りごとでも?」
樋口は心配そうに俺を見つめた。それに合わせて野田も身体を少し屈め、話を聞く体制に入ってくれた。
「実は…」
俺はかくかくしかじかを二人になるべく端的に話した。
今はとにかく時間がないこと、鮎川が松川から暴力を受けてきたこと、そしてまさに今二人が強制的な心中――と言ってもいいのだろうか――を図ろうとしていること…
「…なるほど、話はわかった。確かに大変な事態だ。…だが、実際に目立った動きがない限りは俺たちも下手に動けないんだよ」
野田は俺に同情しながらも、少し困った様子だった。
「そんな…そこをなんとかできませんか…!!だって…人が殺されそうになってるんですよ!!今から強行突破して助けに行くことだって…お願いします、本当に助けたいんです…鮎川だけじゃなく、彼のことも…お願いします…!!」
二人の腕をガッチリと掴み、何度も何度も頭を下げた。しかし、二人はいつまでも首を捻ったままだ。
―――ダメだ、このままだと二人とも…
ついに俺は腹をくくり、二人の腕から手を離した。
「二人がどうしても行けないと言うのなら、俺が行きます」
そう言い放ち、仁王像のように動かなくなってしまった警察官を置いて、俺は鮎川家の門戸に手をかけた。
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