Episode 3

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 なるべく足音を立てないように、と指示され冷や汗をかきながら一歩ずつ足を進める。  玄関から奥へと繋がる廊下を抜け、居間の前へとやってきた。扉は閉ざされており、中の様子はここからでは全く見えない。しかし、扉の向こうからは微かだが声がする。間違いなく二人はここにいるはずだ。 「ここだな。少しだけ様子を(うかが)ってから中に入るぞ」  野田の言葉に、樋口も俺もこくりと頷いた。  固唾を飲み、全神経を研ぎ澄ませる。しん、と静まり返っている室内。けれども、閉ざされた扉の向こうの二人の会話や様子は、じっと耳を澄ましても尚うまく聞き取ることができない状態だった。  扉の前に三人が押しくら饅頭状態で固まる。実際はまだこのようにして数分しか経っていないのだろう。しかし、俺にはこの数分が1時間や2時間のように長く長く感じた。今のところ依然として大きな動きが無く、三人で顔を見合せ肩を(すく)めた。  その時だった。  扉の向こうから、パリーン!と何かガラスのようなものが割れる音、それと同時にドン!と壁に人がぶつかったような痛々しい音が鮮明に聞こえてきた。  更に耳を澄ますと、中からは言葉にならない何かをモゴモゴと叫ぶ女の声と、「俺のために死んでくれ!」と狂ったように叫ぶ松川の声がする。  俺は焦りを抑えきれず、二人の腕に再び掴みかかり小声で助けてくれ、と必死になって伝えた。  すると、二人は口を合わせてこれは緊急事態だ、と本格的に突入態勢に入った。
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