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「ムカつくんだよな、お前のそういうところも」
俺の手を振り払うと、松川は眉を下げ静かに笑った。
「そういうところって…どういう意味だよ」
「顔も良くて、芝居もできて、おまけに性格まで出来上がってんのかよ…ってな――せめて何か一つでも欠点があれば、お前のこと少しは好きになってたかも知んねえな…」
松川はよろよろと立ち上がり俺に背を向けると、後方で黙って話を聞いていた警察官2人の方へゆっくりと歩み寄り始めた。
「そういう訳で、お前のことはずっと大嫌いだった。それだけはこれから先も、変わらない」
「だけど」
そこまで言うと、松川は くっ と苦しそうに嗚咽を漏らし、再び俺のほうへと向き直った。
「才能もセンスも…そんなもん何一つ関係ないところで出会ってたら、きっと違ってたと思うんだ」
「松川――」
ずきん、と心が痛む感覚が襲いかかった。
こいつはずっと――ずっと悩んでいたんだ。それも1人で。
努力が報われないことの苦しみや妬み、焦りや憤り…
そこにどれほどのプレッシャーがあったのだろうか。
俺は今にも溢れ出そうな涙を堪えるべく、天を仰いだ。
「じゃあな、宇治。俺は道を踏み違えた。これからは何事にも囚われない、真っ当な人生を送ることにするよ」
最後にそう言い残すと、松川は小さくなった背中を丸め、警察官2人によって大人しく連行された。
♢
3人が鮎川の玄関を離れ、外に出た時だった。
「なあ、おまわりさん。最後に一個だけ、頼まれてくれないか」
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