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誰もいなくなった、がらんどうの玄関。
俺はへたりと床に座り込み、天井の一点をただぼうっと見つめていた。
ずっと一緒に頑張ってきた仲間が、まさかあんな風に思っていたとは…
思った以上に受けたショックは酷く、立ち直るのにはかなり時間を要するだろうと踏んでいた。
やがて少し冷静になり、ほうっ、と大きなため息を一つついた時、俺は何よりも大事なことを思い出した。
――――鮎川!!
俺は慌てて腰を上げ、ふらつきながらも居間へ続く廊下を小走りで抜けた。
居間の扉を開くと、そこにはソファに横たわり すうすうと寝息を立てて眠る鮎川の姿があった。
よく見ると、彼女の顔色は驚くほど青白く、頬は以前にも増して痩せこけ、目の下にはクマができていた。
鮎川も、誰にも言えずにずっと1人で悩んできたんだな――――
すっかり変わり果てた彼女の姿を見るのが辛く、俺は下唇をぎゅっと強く噛み締めた。
「もう大丈夫だからな」
鮎川の髪を何度も何度も撫で、独り言のように囁いた。
――――愛おしい。守りたい。今度こそ俺が幸せにしたい。
俺は決意と覚悟を決めた。
鮎川の眉にかかる前髪をさらっと撫で上げ、額と額を重ね合わせた。
―――温かい。
静かに顔を離すと、鮎川のまつ毛がゆっくりと揺れた。
「ん…あれ…?宇治…さん?」
「アユちゃん…っ!!!」
目を覚まし驚いた様子の鮎川を、気づけば俺は強く抱きしめていた。
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