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Episode 4
――――「……さん、……宇治さん!!」
誰かが自分を呼ぶ声にはっと目を覚まし身体を起こすと、そこには野田・樋口を含めた警察官5名ほどと俺を揺さぶり起こす鮎川の姿があった。
「ん……あれ、俺寝ちゃってたのか」
「やっと起きたぁ」
そう言うと鮎川はくすくす、と肩を震わせて笑った。
ずっと見たかった鮎川の心から笑う姿を目の当たりにした俺は、危うく泣いてしまいそうになる。
「アユちゃん…もう大丈夫なの?」
「うん。宇治さんが傍にいてくれたお陰で…本当にありがとうございました。ちょうど今警察官の方が戻ってきてくれてね、ちょっとだけ事情聴取してくださってたんです」
鮎川がそう言いながら警察官たちのほうへ目を向けると、野田と樋口は深々と被っていた制帽をとり、ぺこりと会釈をした。
「宇治さんってば、気持ちよさそうに寝てるんだから。私、目が覚めた時つい笑っちゃったもん」
「そうだったのか…はは、恥ずかしいところ見られちゃったな」
先ほどまでの全身がぴりぴりと引き攣るような緊張感はそこにはもうなかった。平穏を取り戻した二人はついに可笑しくなってしまい、顔を見合わせて笑った。
「でも、ちゃんとソファに私を寝かせてくれたんでしょ?ありがとうございます」
鮎川はそう言うと、飛びつくようにして俺に抱き着いてきた。あまりに突然だった為、驚いた俺の声は情けなくも上ずってしまう。
「ちょ、ちょっと…どうしたの!?まだ怖い?」
「ううん、もう全然。これは感謝のハグです」
俺をぎゅうっと抱きしめる鮎川の身体は、もう少しも震えてはいなかった。
ゆっくりと抱きしめ返すと、ふふ、と笑う鮎川の声が優しく俺の耳を擽った。
「ゴホン」
再び二人だけの時間が流れ出しそうになるのを、野田が咳払いで制止した。なんだか恥ずかしくなってしまい、二人は慌てて身体を引き剝がし合い背中を向け天を仰いだ。
「お熱くて目出度いところすまないね。まだ鮎川さんに渡さないといけないものがあるんだ」
「渡さないといけないもの?」
野田の言葉にピンと来ていない様子で鮎川は首を傾げると、俺から離れ野田のほうへと足を進めた。
「これを」
野田が歩み寄り鮎川に何かを手渡すと、鮎川は少し驚いた後声を押し殺して泣き始めた。
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