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「おい、人の顔を見て笑ってんじゃねぇよ。気持ち悪い」
事務所内でパソコンと睨めっこしていた男は、急に顔を上げたかと思うと、向かいに座る俺の顔を見て、とても不機嫌そうな声を響かせた。
俺に罵声を浴びせたその男は、形の良い顔をしているのにもかかわらず、いつも怒ったような表情を浮かべている。きつく結ばれた小さな口と、奥二重の目が、そう思わせるのかもしれない。瞳は茶色で、髪も少し茶髪のような色だか、本人いわくこれは地毛らしい。
「……ごめんごめん。初めてここに来た時のこと、思い出して」
俺は、彼が仏頂面をしてこちらを見ているのが、なんだかおかしくて、笑いながら口を開いた。
笑う俺を見ながら、さらに眉を顰める男の名は、成瀬 南。彼とは、学校も一緒だったため、とても長い付き合いだ。GFの中で唯一の同期であり、俺の親友でもある。
「あー。おまえら、あの時、ガチガチだったもんな」
俺の後ろの席に腰掛けている大宮 和樹さんが、椅子をくるりと回転させてこちらを向き、いたずら混じりに笑いながら話しかけて来た。
GFに就職することになり、アステニー国に来てから、間もなく一年がたとうとしている。
大宮さんは、今でこそこんなに気さくに話しかけてくれるが、最初は、あまり話さない印象が強い人だった。
人見知りだったのかな。
「やめてくださいよ。おまえも、思い出すな恥ずかしい」
南は、先程よりも少し声を高くして、眉を上げて言葉を発した。
俺に話しかけて来た時とはえらい違いだけど、彼の二面性は、昔からだ。もはや天然なのかもしれない。
「あはは」
俺が再び南を見て笑うと、彼はまた思い切り眉を顰めた。
今度はなんで笑ってんだ?とでも言いたそうな顔だったが、首を傾げただけで、何も聞いて来る様子はなかった。
「のんきだよなー託叶は」
笑っている俺を見て、今度は南の隣の席に座っている雨宮 直人さんが口を開いた。
雨宮さんは、いつも笑っていて、一見、いい人そうだけど、たまに目が笑っていない時がある、不思議な人だ。一年一緒に働いてるけど、いまだにどんな人だか分からない。掴めない人って言った方が分かりやすいかもしれない。感情をそのまま表に出す大宮さんとは対照的な印象だ。二人は同じ年らしいけど、あまり仲良くしてるの見たことがない。
「今、灰の子と託叶の話で、世界はえらい騒いでるのに」
雨宮さんは、形の良い笑顔を作りながら、一人言のように呟いた。
「灰の子……。今まで、どこで何をしてたんだか……」
俺は、灰の子と言う単語を聞いて、少し声を低くして、話した。
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