471人が本棚に入れています
本棚に追加
「さぁな。急に世に現れたもんな。今は殺界にいるんだろ」
大宮さんは、眉を顰め、腕を組みながら言う。
GFと殺界。この世界の二大勢力と呼ばれる巨大な組織だ。
近年、灰の子が入ったと、殺界が正式に発表をした。
灰の子は、今まで学校にも行っておらず、義務教育や学問を学ばせるとして、多額の教育資金が用意されたと言う発表を最後に、情報は途絶えていた。だが、近日、二年前に行われた世界模試を、灰の子だけ特別に受けさせると言う情報が世に流れた。
世界模試は七年に一度。これは異例中の異例だ。
「しかし、数カ月間の教育で、世界模試挑戦とはな。託叶もそうだけど、おまえらの頭の中ってどうなってんだよ。見てみたいわ」
雨宮さんは、さらに奇麗な笑顔を作って、楽しそうに言った。
「いやいや、俺とは違いますよ。本当に、灰の子はすごいんでしょうね。あれ、灰の子の名前って……なんでしたっけ?」
俺は、頭を片手で抑えて、言う。
「おいおい、またかよ。何回、聞いたら覚えるんだ?大丈夫か!?抜けてるよなーおまえ」
大宮さんが、膝を手で何度もたたきながら、笑いながら声を出した。
「あはは、すみません。えっと、"シエル"でしたっけ?」
俺は、苦笑いを浮かべながら言う。
灰の子の名前。何度、聞いても覚えられない。なんだっけ。シエル、だっけ。
「ちげーよ。セオドア! セオドア・ザケットだよ!」
大宮さんが、大声で言った。
「シエルって誰だよ。おまえ、いつもその名前と間違えるよな。誰か、知り合いでもいるのか?」
雨宮さんは、俺を見て話した後、今度は隣に座る南に向かって口を開いた。
「いえ……。シエルなんて知り合いはいません」
南が、戸惑うように答える。
「託叶。誰だ、シエルって。なんで、いつも、灰の子、セオドアの名前を、シエルと間違える?」
南が、今度は俺の方を向いて、真剣なまなざしで口を開いた。
「…………」
俺は、目を丸くして、南の顔を見た。
なんで?なんでだろう。俺にも、分からない。
灰の子には会ったこともないし、名前なんて勿論知らなかった。そりゃあ、存在すら知らなかったんだから、当然だ。だけど、なぜか、セオドアと言う名前に、とても違和感がある。シエルだったら、しっくりくるのにって。ただ、それだけだ。
「な、んでだろうな……。分からない……」
俺が、漠然とした顔をして言うと、南は一瞬眉を顰めて、無言になった。
「まぁまぁ成瀬、光の子も、少しは抜けてる所がねぇとな」
まるで、俺を問い質す南を宥めるように、彼の肩に手を置いた雨宮さんは、優しくほほ笑みながら、口を開いた。
「仕方ないわ〜。だって、あなたは光の子だもの! 当然よ〜!」
突然、甲高い声が、事務所内に響き渡った。
最初のコメントを投稿しよう!