第一章 赤い瞳

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「さぁな。急に世に現れたもんな。今は殺界にいるんだろ」  大宮さんは、眉を(ひそ)め、腕を組みながら言う。  GFと殺界。この世界の二大勢力と呼ばれる巨大な組織だ。  近年、灰の子が入ったと、殺界が正式に発表をした。  灰の子は、今まで学校にも行っておらず、義務教育や学問を学ばせるとして、多額の教育資金が用意されたと言う発表を最後に、情報は途絶(とだ)えていた。だが、近日、二年前に行われた世界模試を、灰の子だけ特別に受けさせると言う情報が世に流れた。  世界模試は七年に一度。これは異例中の異例だ。 「しかし、数カ月間の教育で、世界模試挑戦とはな。託叶もそうだけど、おまえらの頭の中ってどうなってんだよ。見てみたいわ」  雨宮さんは、さらに奇麗な笑顔を作って、楽しそうに言った。 「いやいや、俺とは違いますよ。本当に、灰の子はすごいんでしょうね。あれ、灰の子の名前って……なんでしたっけ?」  俺は、頭を片手で抑えて、言う。 「おいおい、またかよ。何回、聞いたら覚えるんだ?大丈夫か!?抜けてるよなーおまえ」  大宮さんが、膝を手で何度もたたきながら、笑いながら声を出した。 「あはは、すみません。えっと、"シエル"でしたっけ?」  俺は、苦笑いを浮かべながら言う。  灰の子の名前。何度、聞いても覚えられない。なんだっけ。シエル、だっけ。 「ちげーよ。セオドア! セオドア・ザケットだよ!」  大宮さんが、大声で言った。 「シエルって誰だよ。おまえ、いつもその名前と間違えるよな。誰か、知り合いでもいるのか?」  雨宮さんは、俺を見て話した後、今度は隣に座る南に向かって口を開いた。 「いえ……。シエルなんて知り合いはいません」  南が、戸惑うように答える。 「託叶。誰だ、シエルって。なんで、いつも、灰の子、セオドアの名前を、シエルと間違える?」  南が、今度は俺の方を向いて、真剣なまなざしで口を開いた。 「…………」  俺は、目を丸くして、南の顔を見た。  なんで?なんでだろう。俺にも、分からない。  灰の子には会ったこともないし、名前なんて勿論(もちろん)知らなかった。そりゃあ、存在すら知らなかったんだから、当然だ。だけど、なぜか、セオドアと言う名前に、とても違和感がある。シエルだったら、しっくりくるのにって。ただ、それだけだ。 「な、んでだろうな……。分からない……」  俺が、漠然とした顔をして言うと、南は一瞬眉を(ひそ)めて、無言になった。 「まぁまぁ成瀬、光の子も、少しは抜けてる所がねぇとな」  まるで、俺を問い(ただ)す南を(なだ)めるように、彼の肩に手を置いた雨宮さんは、優しくほほ笑みながら、口を開いた。 「仕方ないわ〜。だって、あなたは光の子だもの! 当然よ〜!」  突然、甲高い声が、事務所内に響き渡った。
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