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 レース誌や一般メディアの取材を受け、メーカーの広報活動とスポンサーの接待を済ませると、既に夜八時を回っていた。タイトルが掛かった最終戦を控えているせいで、いつもよりメディアの数が多い。  レース活動はとにかく金がかかるし、メーカーの支援も必要だ。広報活動や接待は欠かせなかった。安静を言い渡されてはいたが、骨折や脳へのダメージがある訳では無いので、予定通り全てのスケジュールをこなす。マシンを壊した後ろめたさもあった。  今シーズンのJ-GP3は、KTMに乗る最年長の俺と、ホンダを駆る最年少のワークスライダー、雨宮優貴(あめみやゆうき)が激しいタイトル争いをしていた。ここまで八戦し、来季の世界選手権モト3挑戦が有力視されている優貴と、四勝ずつを分け合っている。二人以外誰も勝てない、異例のシーズンだ。  ミニバイクでのレースデビュー以来、全てのシリーズを一年で制覇してきた十六歳と、二十年振りのタイトルを目指す四十四歳の一騎打ち。二人の異例のライバル関係のためか、レースメディア以外の取材も多かった。  メーカー間で火花を散らすライバルチームに所属するため、レースウィークは殆ど話さないが、普段の仲は良い。対談やツーショットなど殆どの取材はできるだけ受けるようにした。但し、プライベートにまで突っ込んだ取材はお互い避けることで合意している。  レースとプライベートの切り替えもプロフェッショナルな十六歳。一発の速さでは若手No.1の優貴と、今は互角の勝負ができているが、近い将来間違いなく負ける日が来るだろう。だが、明日をその日にするつもりはなかった。
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