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 1コーナーを直線的にカット、減速して2コーナー。小細工は無しで速さに物を言わせる、先行逃げ切り型の優貴が逃げに入っている。ギャップを一気に広げ、後は二位との差をコントロールするのが優貴のパターンだ。  コース幅を使って必死に食らいついた。ここで離されたら、地力で勝る優貴に逃げられる。コンマ七秒以上は離されないようにしていても、裏ストレートでスリップには入れない。ルールで上限一万四千回転に制限されているエンジンの、レヴカウンターを気にしながら優貴の背中を追った。  メインストレート。シフトアップはクラッチを使わず、回転数を合わせてシフトペダルを蹴りこんでいく。やはりスリップには入れないが、ギャップが広がるほどでもない。1コーナー手前で一度右に振ってからアウトに出た。スピードを乗せたまま進入、2コーナーを立ち上がり重視でターン、リズミカルにS字を切り返す。ここのスピードでマシンの仕上がりとライダーの調子が分かるくらい、タイムに響く区間だ。  前を行く優貴はマシンと路面の僅かな隙間でリーンイン。同じタイヤを使っているとは思えないほど深くバンクさせ、アグレッシブに攻めている。  デグナー二個目、優貴のフロントが滑るのが見えた。スリップダウン。そう思った直後、フロントを切り込ませながらもアクセルを大きく開け、何事も無かったように立ちあがった。膝どころか、肘まで路面に擦りそうな勢いだ。 (くそっ、いかれてやがる)胸の内で罵りながら付いて行く。  ヘアピンの突っ込みは俺より明らかに深く、奥まで突っ込んで一気に減速、向きを変えている。続くムサシシケインでも、縁石で左右に振られながらアクセルを緩めない。 (我慢だ)自分に言い聞かせ、丁寧にブレーキングした。フロントの減速力が大きいのでつい依存したくなるが、フロントに荷重が乗りすぎないよう、リアブレーキも多めに使った。緩やかにターンインし、じわりとアクセルを開ける。コース幅を一杯に使い、旋回半径を大きく取って速度を稼いだ。少しでもミスをすれば一気に差が開く。スクリーン越しに優貴の背中を追いながらの、ぎりぎりの綱渡りだ。  差が詰まることは無く、離されないことに集中するレースに、神経が徐々に擦りきれていくのを自覚する。  二分十八秒前半で周回を重ねる消耗戦は、終盤を迎えつつあった。
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