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 目が覚めたのは、病院のベッドの上だった。 体を固定され、点滴と酸素吸入のチューブが繋がっている。 「お前はバカか」 北山が泣き笑いで言った。 「すまない」 「俺はいいから、優貴と優衣さんに謝れ」 目だけ動かして二人を見た。 「脊椎の圧迫骨折に、鎖骨と肋骨の骨折。それに肺挫傷。全治半年だって。来シーズンは乗れないね」 他人事のような優貴。 「加減てものを知らない阿呆を乗せるチームがあるわけないわ」 夫と息子をレースに送り出すほど胆の座った優衣も、今回は呆れている。 「勝てばチャンピオンだったんだ」 言い訳のように言うと、北山が「ほれ」とトロフィーを見せた。 『MFJロードレース全日本選手権第9戦 J-GP3優勝 雨宮虎貴』 台座のプレートに刻まれた文字。 「どういうことだ?」 俺は転倒リタイヤのはずだ。 「父さんが派手に転んだせいで、赤旗が出てそのまま打ち切りになったんだ。レギュレーションで、前の周の順位が最終結果だよ」 優貴が不満そうに言った。 「じゃあ来季のモト3は?」 チャンピオンになれば、優貴はホンダからモト3に参戦できただろう。 「もう一年全日本(勉強)でどうだってさ。まあ、父さんがあのまま走り切れば、どっちみち駄目だったけどね」 あっけらかんとしている優貴に、言葉が出ない。 「だから、優貴はKTM(ウチ)に移籍して、来季はモト3を走ってもらうことになった。視察に来ていた役員に見初められてね」 北山が契約書をひらひらさせた。 優貴が満面の笑みでピースサインをした。 「最後の二ラップ、父さんの背中は忘れないよ」 「優貴……」 「すっ転んでリタイヤしたこともね」 俺を追い越して世界へ羽ばたくライバルが、笑って付け足した。
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