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 室内に篭った熱気を吐き出すように開け放った窓から、柔らかな月明かりが差し込む。三年間の内に慣れた建てつけの悪い窓を開けるのも、おそらくこれが最後だろう。そんなふうに感慨深く窓辺に立っていると後ろから、晃平(こうへい)、と自分を呼ぶ声が聞こえた。 「何か着ないと風邪ひく」  部屋着を着込みながら、(しゅん)が晃平のパジャマを投げてよこす。晃平はそれを受け取って頷いた。 「今日で最後だな、と思って」 「明日で卒業ってこと? それとも俺とのこと?」  名残惜しいのはどっち? と瞬がにやにやした顔で近づくので晃平は、前者、と冷たく答えた。 「そんなあっさりと……まあ、別に恋愛じゃなかったからな。遊び? 共通の趣味?」  言いながら笑う瞬に、バカじゃないの、と短くため息をついて、晃平はパジャマを着込んだ。  三年間同じ寮の部屋で過ごした友人の三石(みついし)瞬は、その間ずっと晃平のセフレでもあった。瞬が言うとおり、遊びか趣味の延長みたいなもので、興味から始まり、習慣になったのはいつ頃だったか――とにかくこの三年近い間、瞬の性欲を受け止めてきたのは晃平だった。普通ならきっと、これで面倒事がひとつ減ると喜ぶのだろう。けれど、晃平の心は寂しさと辛さだけで満たされていた。 「なんだよ、晃平。寂しくないのかよ。俺はもう晃平を抱けないと思うと寂しいよ。寂しくて寂しくてお前で抜いちゃうかも」 「そういうヤバイことはやめろよ、本気で」  けらけらと笑う瞬に冷めた目を向けながら晃平が低く言うと、なんてね、と瞬が微笑む。 「そうじゃなくても、晃平と三年間一緒にいれてよかった。卒業できたのはお前のおかげだ」 「だろうね。僕が生徒会に入って小細工しなきゃ瞬はもう退学してるよね」 「うん、俺もそう思う。だから、ありがとな。三年間、ホントに楽しかった。晃平に会えて、一緒でよかった」  瞬は珍しくそんな真面目なことを言う。晃平がそれに驚いて目を瞠った。そのせいか瞬は、恥ずかしいから自販機行って来る、と笑って部屋を出て行った。  瞬は友達との別れを惜しんでいるのだろう。それはわかるし、当然だ。体を任せたって瞬を何度受け止めたって、それが愛になることなどない。ただの処理作業で、互いが気持ちよくなればそれでいいだけの行為――それは晃平も十分理解している。  でも、晃平にとって卒業は、好きな人のもとを離れることと同じなのだ。たとえ道具みたいなものに思われていたとしても構わなかった。それで瞬の温もりとか、自分しか知らない表情を得られるのならいいと思っていた。けれど卒業を区切りに小さな幸せは終わる。そして、新しい誰かがそれを得ることになるのだ。たとえばそこに愛を伴って、恋人という関係になって。それを思うと、晃平は泣きたいくらいに辛かった。無理だとわかっている。それでも出来ることならずっと瞬の傍にいて、いつか恋人になれたらいいのにと毎日考えていた。もちろん、実現する可能性など一%だってない。それでも―― 「……ずっと好きだったよ、瞬」  部屋に響く晃平の告白は誰にも届くことはない。その残響が寂しくて、晃平は膝を抱えて蹲った。
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