第10話 強豪再建 2

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第10話 強豪再建 2

 風がさっきより冷たい。私は汗で濡れたシャツの袖で、額を拭いながら思う。気付けばもう日も暮れ始めていた。ぜえぜえ肩で息をしながら、何度も同じ所を行ったり来たりするだけで、どうしてこんなに疲れるのだろう。疲れれば疲れるほど、足はますます動かなくなるのに、そんなどうでもいい事ばかりでどんどん冴えていく頭を、私は憎らしいと思った。 「つーことで、改めて自己紹介からな。先生が、今年から陸上部の顧問の、日野です。よろしく」  日野は、何の面白味も感じられない声で話す。 「先週一週間、面倒ごとだらけで、部に一度も顔出せなくてすまん。ま、んな事はさておきだな、おい廷々、この後何すんだ?」  日野はどこに隠していたのか、タブレットを顔の前に広げると、じっと何か確認し始めた。 「はい。まずアップをして、それから一年生の確認も兼ねて、種目練です」  そうか。とだけ、日野は興味が無さそうに応答する。目の前のタブレットに向かって話しているのか、それとも私達に向かって話しているのか分からない。なんなんだろうこの先生。周囲がどう感じているかは分からないが、少なくとも私は、胸の奥がムカムカした。暫く黙り込んでから、日野はタブレットを下ろす。 「んなら、取り敢えずいつも通りで頼む。ちゃんとアップしろよー。ま、先生からはそれくらいだが、日笠先生からは何かあります?」  あ、終わりか。と皆気付いたように拍手をする。日野の「先生」という一人称に、私は終始違和感を覚えながらも、周囲に合わせるように手を叩いた。厳かな拍手が終わるのを待って、ああ、私ですか? と静かに日笠先生は顔を小さく振って話し出す。 「こんにちは。副顧問の日笠です。陸上は点で素人なので、色々とご教示下さると助かります。皆と歳も近いので、相談事があればいつでもどうぞ」  では、よろしくお願いします。とお辞儀をして、日笠先生は自慢の笑顔を向ける。おおっ……と、男子と女子の双方から声が漏れた。外見以外は不釣り合いな二人だなと思いながら、私はパチパチ手を叩く。心なしか、先ほどよりも拍手の音が大きい気がした。 「はい、それならミーティング終了。解散解散」  日野はパンパンと手を叩く。まるで家畜に餌やりをするような、無機質な音が響いた。  起立! と冬井先輩が言うのに合わせて、全員が立ち上がる。続いて、よろしくお願いします! と挨拶が響いたのを歯切りに、私の人生で初めての部活動が始まったのだ。
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