第10話 強豪再建 2

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 部員全員が二列に並んで、消えかけの白線を頼りに、校庭を五周走る。こうして少しずつ体をウォームアップさせるのだ。一周200メートルをゆっくり走っていると、次第に汗をかいてくる。その目安が五周という回数だ。そんなふうに五周も走っていると、そのうち、大小のボールが私達目掛けて飛んでくる。この野球部とサッカー部も混在する校庭で、弱小と名高い私達が、自分達の領土をはっきり主張するのは中々難しいのだ。別に野球部とサッカー部が強豪というわけでは一切無いのだけれど。  四周目に入った時、隊列の先頭にボールが飛びこんだ。それと同時に前の方から、上中尾先輩の怒号が飛ぶ。 「おいこのクソサッカー部! カッコつけて下手くそなボール蹴ってんじゃねぇぞボケェ!」  これが割と常日頃のことだから、陸上部とサッカー部は犬猿の仲だ。この人はもっと協調的になれないのか。と私は、この光景を見る度に、サッカー部に申し訳なく思う。先輩達が面倒くさがって、上中尾先輩を止めようとしないのが悪いのに。 「はい、ランニングしゅうりょーう! 次アップするよー」  五周目が終わると、間髪入れずにさつき先輩が叫ぶ。校庭の体育館の前は、体育祭の時にも使われるように、全長100メートルのストレートコースになっている。ここもよく見てみると、消えかけの白線が全部で六列分引かれているのが分かる。アップの時と種目練の時は、主にこのストレートを使うのだ。 「体験入部来てない一年は、前の人の真似して! 最初ハイスキップねー!」  縦六列に並んだ部員が、横一列ずつ、バラバラとスキップを始める。ハイスキップというのは、名前通り、高く、大きくスキップをしながら歩く練習だ。敏捷性を意識して、ピョーン、ピョーン、と、姿勢良くスキップする。ハイスキップを含めた、数種類の歩行練習を、陸上部ではステップ練と呼んでいる。  私は、体験入部の時、スキップするたび、手と脚が右左同じになってしまったのを思い出した。手と脚の振り方をその場で確認しながら、ふと隣を見ると、千里が何だか不機嫌そうな表情を浮かべ、じっと前の様子を伺っている。 「千里?」  私は不思議に思って話しかける。 「……ん、りくか」 「どうしたの? なんかあった?」  千里は顔の向きを変えない。彼女の睫毛は、さっきからずっと、ピクピクと不自然に痙攣していた。 「何か? そうね、確かに色んなこと考えてるけど」 「そう……」  私は千里の言っていることがよく分からなかったけれど、自分の番が回って来たので、話すのを中断した。  スタートのタイミングは雰囲気で。そんな事は誰からも教わってはいなかったけれど、後列の空気に急かされるように、私はスキップを始めるのだった。  手に汗が滲む。ついさっきまで静かだったストレートが、砂埃を上げていた。  ステップ練の最後のメニューが終わり、冬井先輩とさつき先輩を筆頭に、陸上部は全員一度アスファルトに上がる。流しをするときは、各種目、専用のシューズに履き替えるのが普通らしい。私はまだレーシングシューズもスパイクも持っていないので、柔軟体操をしながら、皆が履き替えるのを待っていた。 「おーい、廷々、冬井ー。ちょっと全員こっちに集めろー」  突然、それまでずっと、キャンプ用の折り畳み椅子に座って、傍観者を続けていた日野が声を上げた。部員達は皆、どうしたんだろ。なんだ? とこぞって疑問する。 「みんな先生の声聞こえたよね? シューズすぐ履いて掲揚塔前に集合して」  そんなさつき先輩のどこか焦りをはらんだ声に、私達は急いで日野の元に駆け寄っていった。
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