第13話 強豪再建 5

2/2
前へ
/43ページ
次へ
 武山駅に着く頃には、既に辺りには暗がりが広がっていた。見慣れた校章模様のボタンの学生服と、地方銀行員の制服が並んでいる。駅の中は狭いので、誰もが駅の入り口前で電車を待っている。寒くはないのだろうか。と思いながら、私は小さく身動ぎした。 「私こっちだから。また明日ね」  千里はばいばい。と手を振りながら、もう一つの駅へ向かう。福井鉄道の駅と、JRの駅は殆ど隣接している。 「ああ、待ってくださいよ。まだ時間あるじゃないですか」 「そうだよ千里〜。まだいいじゃんか〜」  そう私達が呼び止めると、千里は、しょうがないわね。と言いつつも、素直にこちらにトコトコ歩いてくる。 「ん、あれ、なる先輩じゃないですか?」  ふいに波瑠ちゃんが、近くのベンチの方を見て言った。なる先輩と呼ばれた彼女は、イヤフォンを両耳に付けて、スマートフォンの画面をじっと眺めて座っている。私は目を細くして、少し頭の中を探ってみると、すぐに思い出した。部活の話し合いの時、窓際でだるそうにしていたあの女の先輩だ。 「へぇ、あの先輩のこと、波瑠ちゃんは知ってるの?」 「知ってますよ、なる先輩、大谷成美(なるみ)先輩は()()()ですから」 「ヨンパ……? ええっと確か400メートルハードルだっけ」  そうです! 面白い先輩ですよ! と波瑠ちゃんは何故か嬉しそうに答える。そんな彼女を横目に、私は成美先輩をじっと無言で見つめた。 「どうしたの? りく、あの先輩のこと何か気になるの?」  千里が不思議そうな目をして、私に肩を寄せる。 「……あ、ごめんごめん。えっと……ちょっと思い出しちゃったんだよね。大谷先輩、多数決の時、手挙げてなかったからさ」 「え、そうなんですか? 気付かなかったですけど、ちょっと不思議ですね。普段そんな人じゃないんですけど」  あ、まずい。波瑠ちゃんの好奇心を駆り立ててしまったかもしれない。私がそんな事を考え終える前に、波瑠ちゃんは成美先輩の元へと駆け寄っていた。そんな波瑠ちゃんに成美先輩はすぐに気付くと、イヤフォンを外して、何かうんうんと頷いている。するとすぐに、波瑠ちゃんが、二人とも〜! ちょっと話しましょ〜! と手を振った。 「……あ〜あ、変な事にならないといいけど。千里はどうする? 帰るの遅くなりそうだけど」  千里はスマートフォンを取り出して、時間を確認すると、 「ま、今日は予定もないし、良いんじゃない。それに私もさっきの話、ちょっと気になるし」  トン、と肩を私にぶつける。確かに私も成美先輩の行動の理由を知りたかった。だけどそれが気になる反面、私には、開けてはならないパンドラの箱を開けるような気がして、どことなく不安を隠しきれなかった。  早く来てくださ〜い。と、波瑠ちゃんが笑顔で手を振る。その脇で一緒に手招きする、成美先輩の吊り目がちな双眸が、何処か妖しく光っていた。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加