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「本郷さん、こんにちは」
「あ、希くん。貫子さんはお出かけ中かしら?」
「はい。今日は親戚の家に行ってまして」
「あら、そうなの。娘がさくらんぼを送ってくれたんだけどね、一人じゃ食べきれないから、もらってほしくて」
彼女が持っている容器には、たくさんのさくらんぼが入っていた。それを、希に差し出す。
「こんなにいいんですか?」
「私一人だと腐らせちゃうから。希くんがさくらんぼ好きだといいんだけど」
「好きです。たくさんありがとうございます。貫子さんといただきます」
「よかったわあ。こちらこそ受け取ってくれてありがとうねえ」
容器を受け取る希の隣に、念珠郎が並んだ。けれど、なぜか本郷はまったくそっちを見ない。
「じゃあ、希くん、一人でいるのが寂しくなったら、いつでも遊びに来てね」
「え」
本郷はにこにこして言うと、帰っていった。
隣に立つ念珠郎を見上げる。そこには、たしかに彼がいる。
念珠郎は、僕にしか見えないのか?
その疑問に答えるように、美しい顔は微笑んだ。
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