273人が本棚に入れています
本棚に追加
指を抜いた彼が帯をほどく音がする。そして、そこに何かを塗られた。
「痛かったら言ってください」
熱いものが体の中に入ってくる。体の境界線がなくなっていく。
「はあ……大丈夫ですか?」
「ん……だいじょう、ぶ」
背後の念珠郎に向けて、こくりとうなずいた。
「希から求めてくれるなんて、嬉しいです」
「僕、だって……念珠郎と、こういうこと、したいよ」
「可愛らしくて、めちゃくちゃにしたくなります」
腰がゆるく動きはじめた。中と擦れるごとに、腰が跳ねる。
「はあ……すごく気持ちいいです。希の体温に触れて、魂が溶け合って、これ以上ないほど幸せです」
「あっ……あっ、あっ」
出入りする動きが、大きく速くなっていく。
念珠郎が腰を動かすたびに、結合部からの音と、肌がぶつかる音が響いた。
「あっ……ねんじゅろっ、激し……っ」
頭がおかしくなりそうなほどの快感によって、体が跳ねた。
念珠郎がさらに奥へと入ってくる。
「あっ……あっ、奥っ、きてるっ」
「ええ、奥まで入ってますよ。気持ちいいですね」
「んっ……あっ……っ」
「そろそろいきそうですか?」
「っあ、はあっ、いき、そっ」
うなずくと、さらに激しい動きへと変わった。
体が燃えるようだった。体に溜まった熱が、一気に弾ける。
希が背を反らす。
ほぼ同時に、念珠郎が腰を震わせた。彼から出たものが、体に溶けていく。
「ひっ! ああっ」
強すぎる快感が、体を駆け抜ける。全身に鳥肌が立つ。希の射精がとまらず、体が波打った。
「これでさらに、俺と強く結びつきましたね」
満足そうな声を最後に、意識が途切れた。
◇
離れの手前で、希は足を止めた。池のほうから、鯉が跳ねる音が聞こえる。
穏やかな雰囲気の中、離れはひっそりとしていた。誰もいないかのようだが、その中に何者かがいることを、希は知っている。
戸に手をかけ、開けようとした時、寺で会った僧侶の、「生半可な気持ちで相手にするには、まずい相手だのう」という声が、頭をかすめた。
念珠郎が何なのか、僕にはわからない。でも、あの美しい青年の外見をした「何か」に、愛情を抱いていることは確かだ。
頭にこだまする声を振り切って、扉を開けた。
「ただいまー」
そう言いながら靴を脱いだ。
部屋に入り、畳の上にバッグを置いて、洗面所へ向かう。
手洗いとうがいを終えた希は、再び部屋に戻り、ごろりと寝転んだ。
「暑い……」
夏の気配が強くなっていた。自転車で帰ってきた希は、じわりと汗をかいている。
そのままじっとしていると、ふわっと風が吹いた。窓を開けていないのに、心地良い風が体に当たる。
優しくて柔らかな風が気持ちいい。瞼を閉じた希は、口元をゆるめた。
誰かが畳を踏む音がした。
それはすぐ近くから聞こえて、ゆっくり瞼を開ける。
「おかえりなさい、希」
美しい紺色の着物、秀麗な顔が視界に入った。
「念珠郎、ただいま」
念珠郎を見上げて笑みを浮かべる希の髪を、風が撫でるように揺らした。
END
最初のコメントを投稿しよう!