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「え」  口を開けてそれを眺める希に、念珠郎が体を寄せる。  端正な顔が近づいてきて、気がつけば柔らかい物が唇に触れた。 「んっ……!」  体重をかけられて、押し倒される。布団に希の頭がついたところで、念珠郎の口から液体が流し込まれた。  口の中にぬるい液体が入ってくる。ほんのりと甘いそれを、思考が追いつかない希は思わず飲んでしまった。  念珠郎は口を離さずに、舌を入れてくる。びっくりして肩が跳ねた。 「っ……っん」  まるで味わうように舌が口内をかき混ぜる。くちゅりという音が聞こえて、一気に頬が熱くなった。  抵抗しようにも、体が縫い付けられたかのように動かない。  念珠郎の顔がやっと離れる。  満足そうに唇を舐める顔が視界に映ったのを最後に、希の意識は途切れた。    ◇ 「一日で治ってよかったわねえ」  うどんを作って持ってきてくれた貫子が、にこにこして言った。  希は口の中の物を飲み込んでから、頭を下げる。 「ごめん、心配かけて」 「気にしなくていいのよ。元気になってくれたらそれで」  貫子は穏やかに笑った。なんだか胸が熱くなって、「ありがとう」と呟き、熱を飲みこむようにうどんを食べた。  貫子が母屋に戻ってから、希は床の間の前に座った。何度見ても美しい扇子に向けて、口を開く。 「ありがとう、念珠郎」  念珠郎は人ではない、ということはもうはっきりとわかっていた。その正体はこの扇子なんじゃないか、と希は半分信じている。馬鹿げた考えかもしれないが。 「もうすっかり良くなったよ」  昨日のしっとりした唇と、熱い舌、自分に覆いかぶさった体を思い出し、顔が赤くなる。  念珠郎を想い、彼と扇子を重ね合わせて、ガラスケースにそっと触れる希の肌を、柔らかな風が撫でた。    ◇  風邪は治って、体は元に戻った。はずだった。 「はあっ……はあっ」  夜、布団で携帯電話をいじっていた希は、突然苦しくなった。  荒い呼吸を繰り返す希の頭が、ぼーっとしてくる。  体が熱い。そして、下半身に違和感がある。 「え……なんで……?」  下半身に向けた目に、硬くなってたち上がっているそれが映った。  生理現象にしても何かが変だ。  布を押し上げるそこに恐る恐る指で触ると、電流が走った。 「んっ」  軽く触れただけなのに、予想以上の快感が走る。  困惑と不安に眉を下げる希は、襖が開いたことに気がつかなかった。 「希」 「念珠郎……?」  仰向けのまま顔を動かした先に、念珠郎が立っていた。電気がついているため、その美しい顔がよく見える。  彼は音もなく部屋に入ってきて、横に座る。 「辛いですか?」 「あっ……!」  頬を撫でてくる念珠郎の手の刺激に、希は胸を小さく反らす。  撫でられただけなのに、まるで体の中心に触れられたかのようだった。
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