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パーティー会場を挟んでエレベーターホールとは反対側、つまりフロアの奥はスタッフや主催者のための準備スペースになっているため、関係者以外の立ち入りは禁止されている。
客に見えない場所でスタッフたちが放つ張り詰めた空気の中、一人のダンディな雰囲気を纏った壮年の男性が、ゆったりと歩いていた。
ブラックスーツの上からでも鍛えられていると分かるほど体格が良く、綺麗に整えられたあご髭が頼もしい大人の色気を増幅させている。
会社役員と思わせるほどの風格があるが、決してうっかり立入禁止エリアに迷い込んでしまった招待客というわけではない。
すると彼が装着しているインカムに、静かな口調で通信が入った。
「……来賓の受付完了。不審者、不審物など特に問題はありません」
「おぅ、ご苦労さん。ちょいと遅れちまってるみたいでさ。オメェは引き続き受付周辺の警備を頼む。パーティーが始まったら会場に入ってくれ」
と、耳の奥をゾクリとさせる艶やかな低い声で指示を出した後、腕時計に視線を落として時刻を確認する。
彼らは「今夜のパーティーに出席できないお詫びに」と、浦間開発の社長と懇意にしている人物が派遣した私服警備員たちであった。
受付のあるエレベーターホール側を若い部下が、そして関係者用控え室がある準備スペース側をベテランの上官が警備しつつ、安全確認を徹底していたところである。
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