プロローグ

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プロローグ

「片野さーん、ランチしませんかぁ?」 デスクで背伸びをする片野つむりの背中ごし、声がかかり振り返る。 デザインチームと営業部の女子社員たちが、パネル越しに財布を抱えて手を 振っている。 「あー、私は今日は、いいかな?お弁当あるし」  つむりが、小さな巾着をプラプラさせながら、左手で、ごめんのポーズを 返す。 「片野主任、あんなに忙しいのに、お弁当も作ってきてるんですか?女子力 も高いんだぁ。やっぱり、できる女は違いますね!」 手を叩いて自分たちで勝手に盛り上がる後輩たち。 “いや、そんなんじゃなくて…”と、声にならない声で訂正しながら、苦笑 いを浮かべる、つむり。 「ちーがう!片野主任の弁当は、愛彼弁当よ」 間に割って入るように、同僚の津村 安子が、顔の前で大きく手をヒラヒラ させる。  「えーっ!彼氏さんの弁当なんですか!?すごい!見たい見たい」 まるで、エサをまかれた奈良公園の鹿みたく、パネルごしの女子社員たちは、 一気に、つむりのデスク周りに集まる。 その視線は、つむりの巾着に釘づけで、もう見せる以外の選択肢がないのが 、ありありと伝わってくる。 「あはは…そんな…たいしたモノじゃ…ないんだよ?」
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