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「入るよ」
そう言って、ドアを開けたのは、昨夜のお兄さんだった。
「やっと起きたな。頭、大丈夫?体は?どっか痛いとこない?」
「…うん。あ、あの、昨夜は、ごめんなさ…」
「まったく、災難だったよ。あれから、あんた、気を失うしさ。救急車で
も呼ぼうって話なったけど、血はかすり傷で止まってるし、それに」
「それに?」
「あんた、よっぽど疲れてたんだな?がーがー、いびきかくしさ」
肩を震わせながら、彼は笑いを噛み殺していた。
「マスターと片付けながら、一旦、店のソファーで寝かせてたんだけど、
あまりに起きないし、家調べようにも、あんたの私物あさるのも気がひ
けてさ…マスターとも相談して、とりあえず、俺の家、近かったから。
マスターの車で運んだんだよ」
「うわぁ……」
自分が情けなさすぎて、恥ずかしすぎて、まともに声が出ない。
「本当に…昨夜から、ずっと、すいませんでした」
やっと、きちんと謝れた気がした。
翔平は、うんうん、と頷きながら。
「それよりさ…あんたの携帯、結構、鳴ってたけど?大丈夫?」
心配そうにバッグを指差す。
「え……、あの、今…何時?」
「ん?ああ、金曜日の9時すぎ、かな?」
「えっ!ええっ??朝、9時ぃ!?」
つむりは、あたふたしながら、バッグに手を伸ばす。
が、頭のズキズキと体のだるさ、右足の痛みに手があと少しで伸びきらな
い…。
「ほれっ」
翔平が、ひょいとバッグを取り、そのまま、つむりに渡す。
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