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「あ、ありがとうございます」
つむりが軽く頭を下げながら、スマホを取り出し確認すると、会社と同
僚の津村 安子の携帯から交互に着信が入っていた。
留守録を聞くと、安子のメッセージに企画部の田中課長からの半ギレ気味
のメッセージが入っていた。
つむりは、意を決したように折り返し連絡をする。
「お疲れ様、です。企画部の片野です。田中課長おられますか?…はい、
はい…申し訳ありません。連絡遅れまして、実は昨夜…はい。ええ、体が
動かなくて、はい、すいません、ご迷惑おかけしますが…」
いろんな情報をとりつくろって、月曜日に出てくる胸を伝えた。
「…はぁぁ…」
思わずため息を漏らすと、すぐ横で、翔平が珈琲を持って来てくれていた。
「…主任っていうのも、大変だね?クリエイターなんだ?」
察するように、ニッコリと声をかけてくれた。
「…本当に、すいませんでした。このお礼は、必ず、させてください」
つむりは、焦りで、すっかり酔いも覚めていた。
珈琲をもらいながら、昨夜のこと、今の情けない自分を悔いていた。
「あのさ、片野さん…だっけ?今日、休みになったんでしょ?もし、あん
たが嫌じゃなくて、足の痛みとか無理じゃなかったら…少し、リフレッシュ
してみない?」
そう言うと、翔平は、珈琲を飲み干しながら、私を誘った。
誘ってくれたのは、翔平が勤めている某大手食品会社が運営する専用ファ
ームでの、無農薬野菜の体験収穫のミニイベントで。
そこで私は、土をいじりながら、まっさらな空気を体中に吸い込み、たま
りにたまったストレスと毒を洗い流したあとは。
これまた、翔平がピクニック気分で用意してくれていた無農薬野菜の特製
サンドイッチと珈琲を食べ、やけに素直な気持ちになれた。
それから、何となくお礼もかねて、翔平とマスターに、あの夜の悪態を
肴に、いじられながら、バー通うようになった。
何かと料理が好きで、飾らない翔平を好きになるまでに時間はかからず。
翔平も、仕事意外、とくに食べて笑うことしかできない私のどこが気にい
ってくれたのか?
「つむりといると、俺まで、のんびりした気分になる。最初の出会いは最
悪だっけど、意外と気が合うのかもな?」
そう、笑いながら、告白とは言えない告白を、私はそのまま自然に受け
とめて、今の、ほぼ同棲に至る。
何かと、翔平に胃袋をつかまれて甘えたがった私は、気がつくと翔平宅に
居候していたのだった。
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