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「…そんな人、いませんよ?別に、彼女とかじゃなくても、友達とか家族
とかでもよくないですか?」
「…へっ?」
翔平がボソッと応えた。
私は思わず、間のぬけた返事でこたえた。
「だって…さっきのお兄さんの口ぶりってさぁ?……いててっ…」
急に鳩尾あたりがキューっと疼いて、私はお腹に手を当てた。
「お姉さん、だいぶ飲んでたみたいだけど、夕飯とか食べた?もしかして
、そのスナック盛りだけじゃないの?」
「…だって、仕事遅くなったし、こんな時間にご飯食べたら、間違い
なく太るじゃん」
「ぷっ……間違いなく太るじゃん、て。そんだけ甘いのやら、しょっぱい
の食べて飲んどいて、今さら言う?空きっ腹にお酒なんて一番よくないじ
ゃん?」
言い返す言葉が出てこない。
でも、ちょっと冷たそうな顔してる割に、このお兄さん、笑うとクシャっ
てなるんだな…くりっとした少し淡い茶色の目も三日月みたいになくなる
んだな。
つむりが、翔平の一瞬だけ見せた素の笑顔を見つめていると、彼は、小さ
く“よしっ”と言って、カウンターに入りこみ店長に声をかけた。
店長は、黙って、うんうんと頷く。翔平は、持って来た段ボールの中か
ら玉ねぎやら白菜やらを少し、目の前のキッチンで切りはじめた。
同時に冷蔵庫から、カクテル用にも使う牛乳を出し、小鍋に注ぎ、何やら
作りはじめる。
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