1、イケメン彼氏は突然に?

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「…何やってんの?いきなり」  つむりが、不思議そうに、お腹をおさえながら、カウンター越しに覗き こむと、やさしい笑顔をたたえたままの翔平がフッと笑う。 「いいもの」 そう言うと、材料を鍋に入れ、ご飯を軽く一杯分足した。 腕を組みながら小鍋を見る彼を、つむりも見つめていると、目の前に烏龍 茶のグラスが置かれた。 「まったく、相変わらず本ちゃんは、お人好しなんだから…」 マスターが、やれやれと言った顔で翔平に目配せをする。 誰もいなくなっていた店内に、バーとは場違いな、やさしい美味しそうな 香りが立ちこめる。 「さぁ…できた」 翔平は、小さなお椀に中身を軽くつぐと、つむりの目の前に、匙と共に置 いた。 フワッとした湯気がたちあがり、白濁色のスープに色鮮やかな野菜とご飯 が、しんなりと、食べ頃を感じさせている。 「えっ…これって…」 つむりは、目を丸くしながら、目の前の翔平に言う。 「特製ミルク雑炊、とんこつ風…胃にやさしいと思うよ」  私はゆっくりと口に運ぶ。 痛かった鳩尾あたりが、人肌のぬくもりのように包まれて、心までも息を 吹き返すようにポカポカしてくる。 生姜と牛乳、おダシの味が白飯に染みて、口の中でほろほろと、とけてい く。 「はぁ…、美味しい」 思わず、ため息と共に、感想を口にした。 「良かった。いい顔になった」 そう言うと、翔平は片付けをはじめ、マスターの分も少しついで渡した。 「ああ…いいね、これは、九州が恋しくなるなぁ…」 「なんですか?それ」 マスターと翔平が笑っている。 つむりは、ぜんぶたいらげると、手のひらを合わせ“ごちそうさま”をし た。 「じゃあ、俺はそろそろ、失礼します。マスター」  そう言うと、翔平は道具を元の場所に戻し、カウンターから外に出た。 「あ…ごちそうさま、でした。それに、ごめんなさい」 つむりは、咄嗟に翔平に謝ろうとして、高めの回転椅子から降りようとし た。 その瞬間。
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