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その時、人の流れに紛れ込むようにして、甘い匂いが鼻先をくすぐった。
それは間違いなく瀬奈の香水の匂いで、ハッ…として見回せば遠くのほうに見覚えのある背中が見えた。
「…やっ、待っ…!」
人のあいだを縫うようにして進み、必死に追いかける。
名前を呼んでみても、この距離ではその声も届かなくて。
それでも、懸命に足を動かしながら、何度も瀬奈を呼び続けた。
気付いて、と言うように。
「…っ瀬奈!!」
やっとのことで、何度目かの呼び掛けに反応したように彼が振り向いた。
すぐ目の前まで行き、愛莉は肩を上下させて大きく息を吐いた。
瀬奈が行く前に間に合って、そのことにとりあえず安堵する。
彼の側にあるスーツケースを見て、あぁ本当に行くんだ、と改めて思わされた。
一縷の望みを抱いて抱いたものの、それは一瞬で砕かれた。
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