第3話 2大派閥

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第3話 2大派閥

      17:40 懲罰房 懲罰房とは、刑務所に服役中の囚人が刑務所内の規則に違反したり、はたまた暴力沙汰などの問題行動を起こした場合、一定期間中の間、収容される部屋のことである。 例えるならば、子供が言うことを聞かない場合、よく親はお仕置きの意味を込めて物置へとその子供を閉じ込めるだろう。 それと似たような事が刑務所内でも行われているのだ。 ……って、それは第1話でも説明したんだっけ。 とにかく、ここ懲罰房はとても恐ろしい場所なのだ。 普通の一般房と比べて、ここの懲罰房は半分ほどの広さしかない。 ギリギリ、大の大人が寝転べるぐらいだ。 それに懲罰房の壁は分厚く、外の騒音や光などを、一切遮断してしまう。 音も光も与えられない、というのは人間にとって、一番恐ろしい事ではないだろうか。 そんな懲罰房に,僕ことナナシはこの赤髪の囚人に連れられてやって来た。 全く, あまり僕は他の囚人と関係を持ちたくないのだが。 しかし,刑務官のあの反応。 ——この男には,何か大きな秘密があるな? 「フフ、すまんな。 こんな汚いトコに連れてきてしもうて。 盗み聞きされると、いろいろ困るんや。 特に、『ドウモトグループ』の連中にはな」 狭苦しい懲罰房の中央で腰を下ろした赤髪の男は、僕に向かってそう言った。 「ドウモト?」 聞き慣れない人物の名前に、僕は尋ね返す。 刑務所で目立たぬよう,他の囚人との関係を持たずに生きてきた僕には,この刑務所内についての何の知識も無いのだ。 「なんや、知らんのか。 ホンマによくそれで、 この刑務所で暮らしてきたな。 ドウモトって言うのは、 この刑務所『2大派閥』のうちの一つ。 ドウモトグループのトップや。 ……ああ、安心せえや。 あの食堂の場にいたのは、味方ばっかりやから」 「2大派閥?」 気になったその単語について、僕は尋ね返した。 「ああ、そうや。 この刑務所で『もっと楽しく』過ごしたかったら、囚人は、この2大派閥のうちのどちらかに付く。  人は群れた方が、もっともっと強くなるからな。 …………ドウモトは表で『殺し』をやって ここにぶち込まれてきた、 全身傷だらけの恐ろしい男や。 6年前、ヤツが刑務所に入ってきた日。 腕っぷしに自信のある多くの囚人がヤツを『シメ』ようとした。 けど、そんな囚人たちを、ドウモトは逆に返り討ちにしたんや。 それから、ヤツが一大武闘派グループを作り上げたのはあっという間のことやった……」 「それで、ついた名前がドウモトグループってワケか」 「ああ、そや。 ドウモトは刑務所内の荒くれ者どもを力で束ねとる。 それこそ、気に入らんヤツを見つければ、容赦なく半殺しやろな」 ——そんなヤツがこの刑務所内にいたのか。   中々興味深いな。 僕はこの赤髪の男がどうしてこんな所にまで僕を連れてきたのか。 その事を聞くことも忘れて,彼の話に聞き入ってしまっていた。 「……ドウモトの事はよく分かりました。 じゃあ、次に教えて下さい。 もう一つの、『派閥』ってのは?」 「……『マチミヤグループ』や」 「マチミヤ?」 「……マチミヤグループは、 ドウモトグループの一年後に作られた派閥や。 ドウモトグループのやりたい放題に苦しめられ続けた、他の囚人たちが作り上げた、もう一つの派閥。 ドウモトの『暴力』に対抗できるのは、 『情報』やと、トップのマチミヤは考えた。 そやから、マチミヤグループの囚人はかき集められるだけ情報をかき集めたんや。 それこそ、ありったけの情報を。 表の世界で日々起こる事件や、世界の動き。 また表だけでなく、 刑務所内の囚人の情報とかもな。 だからこそ、マチミヤグループは 刑務所側から『頼り』にされてんねん。 刑務所側では把握しきれない、囚人だからこそ掴むことの出来る情報もあるからな。 だから、こうやって懲罰房を貸切に出来たり、君の事も知ってたんやで?  囚人番号7272番さん」 奥にある白い八重歯を見せながら、赤髪の男はニカニカとそう笑った。 ——なるほど、いくらか読めてきたぞ。 青年は彼の話を聞いて、素直に納得した。 「なるほど。 という事はつまり、アンタはマチミヤグループに所属している囚人の一人だと?」 「フフフ、それは半分『合ってて』半分『間違ってる』な」 そういうと、赤髪の男は僕に顔を近づけてきた。 そして小声で、しかしハッキリとした口調で、こう囁いてきたのだ。 「ワシがマチミヤグループのトップ、『マチミヤ』なんや」   
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