ジェットコースター……

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ジェットコースター……

 あー情けない…。 (はぁーっ…)  やはり、自然に溜息が漏れてしまう。  その度に、胸の奥の深い所がズキリと痛むのは何故だろう…⁉︎  何か話そうかとさっきからずっと思っているが、言葉を発したらきっと心の声が漏れてしまうだろうーー。  そう思ったから沈黙を貫いているが、若干の喧騒に割って入ってくる悲鳴が鬱陶しくて仕方がない。  この場に相応しいのだが、耳を塞いでしまいたくなる。  だけど、そんな事をしたら今までの努力もそうだが…何よりもデートが台無しになってしまう。  だから、ぐっと堪えた。  結局、何も交わさずに順番が来てしまった。  しかし、テンションMAXの彼女が一言も発さなかったのは返って不自然に思えてしまう。  もしかしたら、無理をして明るく振る舞っていたのではないかーー?  と、考えてしまう。 「お待たせしました。どうぞー」  キャストさんに誘導され、皆ワイワイと燥ぎながらコースターに乗り込んで行く。  だけど、僕たちだけは違う。  まるで、喧嘩をしているかのような沈黙だ。  それでも、座席は最後尾だから誰も僕たちを気にする事は無い。  そこだけは救いだーー。  安全装置に手を掛け下ろそうとすると、彼女は僕の手に自らの手を添えた。 「大丈夫?」 「えっ? 何が?」  彼女はとても心配そうな表情を浮かべている。 「苦手なんでしょう?」 「…!」  ーーまさか、彼女は知っているのか…⁉︎ 「本当は絶叫苦手なんでしょう?」 「もう遅いけど…」と一言加えてから下げた。  何故か、彼女は知っていたーー。  僕がずっと言えなかった事を…。 「では、出発しま〜す。 お気をつけて、行ってらっしゃい 」  キャストさんの掛け声でコースターはゆっくりと動き出し、急すぎる坂をゆ〜っくりと登って行く。  いつもならば、恐怖で目をギュッと閉じてしまっているが、今日は隣の彼女を見つめてしまう。  彼女は上空からの景色を眺め、嬉しそうにしていた。  ーーしかし、彼女は何故"僕が絶叫苦手"という事実を知っていたのだろうか…。  態度に出ていたのだろうか?  いや、そんなはずは無い。  たぶん…。  きっと…。
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