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ジェットコースター…
『キャァ〜ッ』
楽しそうな叫び声が聞こえた瞬間、コースターは猛スピードで坂を下り、一瞬にして大きく一回転する。
その瞬間から、僕は何も考えられなくなり、手すりに全体重を預けるようにしっかりと掴まった。
毎回思うのだが、怖いーーの一言では終われない…。
ーー心停止してしまうのではないか?
と、毎回不安になってしまう。
今、思うのは一つ。
ーーどうか、早く降ろしてくださいっ…!
「ふふっ…」
「ふふふっ…」
そんな僕とは裏腹に、隣から物凄く楽しそうな笑い声が聴こえてくる。
僕が勇気を出して彼女を見つめると、ある事に気付いた。
ーーあれ…?
ーー泣いているのか?
どうして…?
涙こそ出ていないが、彼女の頬には光る筋が二つあった。
気のせいかもしれない。
そう思って、目を反らした。
それから、彼女の顔を見ていない。
そして、何も考えていない。
「お帰りなさ〜い」
気がつくと、コースターが止まっていた。
彼女に続きコースターを降りると、僕はずっと訊きたかった一言を口にした。
「いつから気づいてたんだ?」
「ふふふっ」
すると、彼女は急に笑い出した。
「隠してたつもりなの?」
僕の問いには答えず、彼女も質問をしてくる。
「そんなに簡単に見破られるものなのか?」
「ふふっ。暁斗、自分の癖知ってる?」
「えっ…⁉︎ 癖?」
「苦手な物を見る時にね、目がキョロキョロと泳ぐのよ。ふふふっ…」
彼女に言われるまで、自分にそんな癖がある事を全く知らなかった。
ーーしかし、そんな癖はいつの間に習得していたのだろうか…。
「初めての時にその癖に気づいたのよ。だから、初めから苦手なのは知ってたわ」
そうだったのか。
だったら、どうして言ってくれなかったのだろうか?
しかし、そんな事では彼女を責められない。
それに、これは絶叫が苦手な僕の責任だ。
「だけど、私は暁斗の口から聞きたかった。だから、ずっと聞かなかったの」
「…」
そうだ。これは僕から打ち明けるべきだったんだ。
「怒ってるよね? ごめんなさい」
さっきから考え過ぎて黙りになってしまっている僕だが、怒っていると思われて気を遣わせてしまっているらしい。
「怒ってないよ」
「本当に?」
僕は大きく頷いて見せた。
「僕の方こそごめん。格好悪いと思われるのが怖かったからずっと言えなかったんだ」
「…」
「本当言うと、亜湖を失うのがずっと怖かった」
「正直に話したら、亜湖が引いて、離れて行くんじゃないか?って、そればっかり考えてた」
今まで真剣に僕の話を聞いてくれていた亜湖は立ち止まり、僕の両手を取って強く握った。
「そっか。辛かったよね? 話してくれてありがとう」
それだけ言うと、手を離して再び歩き出す。
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