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ジェットコースター…
ーーこれって、引かれていないって事なのか?
ーーそれとも、引かれたのか?
やはり、怖くてそれは聞けなかった。
しかし、彼女の手はやけに冷たかった。
それもそうか。
これから、本格的な冬が訪れようとしているのだから。
僕たちは陽が沈むまで遊園地を満喫して、いつものように彼女を家の前まで送り届け、軽く触れる程度のキスを交わしてから別れた。
ーーあれから、一週間が経っというのに、亜湖からは何の連絡もない。
だから、少し不安になってしまう。
ーーやはり、引かれてしまったのだろうか?
気にはなるが、いつものように出勤する準備をしている。
今日も僕にとっての一日が始まって行く。
いつものようにトーストを口にしながら、テレビをつける。
『今日未明、神崎亜湖容疑者を逮捕しました。
神崎容疑者は、二週間前の殺人事件に関与した疑いが持たれています』
このニュースに衝撃を受けたのと同時に、コースターでの涙の訳を悟った。
二週間前に大切な友人を手にかけてしまった事への後悔だったのかもしれないーー。
そう思うと、哀しい。
こんな形で、ずっと見ていたい大好きな無邪気な笑顔を奪われてしまった事が悔しい…。
この時に僕は思った。
ーー誰にだって言えない秘密はある。
これが、彼女の抱えていた秘密だったのだと…。
ーーどれほど、辛かったのだろうか?
ーー自分が彼女の立場だったら、どうだったのだろうか?
考えてしまう。
ーー彼女のあの大好きな笑顔を守りたかった…。
ーーいや、守れたのではないか。
ーーその為には、どうするべきだったのだろうか?
考えても考えても分からないーー。
まるで、猛スピードで坂を下るだけで意味のないスリル満点のジェットコースターのようだった……。
《完》
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