霜月の夜

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25歳、土谷明里…私の仕事はキャバ嬢。 酔狂のさざめき。歓楽街。 人に埋もれ身を隠すようにひっそりと暮らし…昔の自分も切り捨て、感情をなくしたお人形さんに成りすまし… club LUNAで働いている。 ここで出会った人は誰もあたしを“明里”とは呼ばない。 「柚那ちゃ~ん。今日アフター付き合ってよ」 『もう~。半田さん、呑みすぎ!』 指名客の半田さんは、50過ぎで頭髪が若干薄めのオジサマ。半田さんはドブのように臭い口臭を吐きながら、あたしの肩にもたれかかり甘えていた。 あぁ…ダル。っか口臭が臭いんだわ。おぇっ。吐き気。 早く帰れよハゲ。 ベタベタくっついてくるハゲは、ラストまでお店に居てアフターを誘ってきた…まぁ適当に言い訳をして上手いこと帰らせたけどね。 そう、あたしは明里と言う名前とは引き換えに柚那と言う名を名乗って今日までの数年間を生きてきた。
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