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やっほーーッ!
(やっほーーッ)
どこからともなく聞こえる声。本日の天候は文句なしに快晴。矢吹功太は標高870mほどの青葉山の山頂まで、太陽の恩恵を受けながらやっとこさ登りつめた。
「あー。着いた……」
片道4時間かけ、山の鼓動を感じ、とうとうここまで来たかと目の前に広がる景色と空気を思い切り吸い込んだ。
肌に触れる風が頬を優しく包み込む。ここにいれば日常を忘れることくらい容易いもんだと、新緑の大パノラマに釘付けになった。
辺りを眺めていると、功太より少し年上のカップルが大声でやまびこを楽しんでいた。
お互いの名前だろうか「よしひこーーッ」「あすかーーッ!」と呼び合っていて、まるで愛を確かめあっているように見えた。
ーー折角だからやまびこ楽しんでみようかな。
そう思い、功太も片思いの女の子の名前を連呼する。ここで叫んだら叶う気がした。
「かなえーー! かなえーーッ!」
すると向こうからも、かなえーーッとこだました声がかすかに聞こえ、一瞬でも大自然と友達になれた錯覚を起こす。そしてもう一度。
「かなえーー! かなえーーッ!」
すると今度は。
「こうたーー! こうたーーッ!」
え? 功太は耳を疑った。まさか、かなえもどこかにいるのか。応えるようにまた叫んだ。
「かなえーー、かなえーーッ!」
「こうたーー! こうたーーっ!」
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