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「お主はじめての雛祭りは、まだ6ヶ月じゃったな、こーんなに小さくて可愛かったぞい」
「貴様はその時、我が愛しの女雛の髪を引っ張ったのだぞ」「え、えー記憶にないデス」
「まぁないのが当然じゃろう、ファーストコンタクトがそんなでも、守ってやるのが妾らの仕事じゃ、感謝せい!」
ファーストコンタクトなんて難しい言葉知ってるなぁ。
「貴様が五歳の頃のひなまつりなんてすごかったわい、拙者らの着物にジュースこぼしたんじゃからな!」
「あー、それはなんか覚えてます、その節はどうも」「どうも。じゃないわい、敬いの気持ちが足りんぞ」プンスカというよりプンプンの方が似合う可愛らしい怒り方だ。話しているだけで楽しく落ち着いてきて、まるで遠くに住んでるおじいちゃんやおばあちゃんに会った時みたいだった。「ちゃんと汚れは落ちましたか」「あぁ落ちたとも、お主の母様は器用だからな」
着物は人間用でも洗うのが大変だと言われている。そして、それよりもずっと小さい人形用をきれいに洗えるお母さんはやはり器用なのだろう。「すごい」「母親というものはいつの時代も偉大じゃ、お主も親孝行を忘れるんじゃあないぞ」「分かっています!」
人形に説教される日が来るなんて思わなかった。けれども不快感はない、何故か笑み浮かんでくるほどだ。心の底が温まるような不思議な感じ。
そうした調子で、私と雛人形達は約20分間語り明かしていた。時間は短くても、この20分にはどんな時間よりも有意義で、意味のある時が流れていた。
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