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「さて、じゃあまだ探すとしますか」時刻は3時半を指している。あと三十分で見つけられるかどうかはわからないが、頑張ろう!
私は四周目になるであろう小物用の箱に手を伸ばした。が、それを阻止したのはお内裏様だ、「もうそこは見ただろう。もっと他を探した方がよほど効率的だ」他の場所?他の場所…どこだろう、箱や周辺以外に心当たりがない。「押入れの中は見たかね?」押入れ?
雛人形は二段になっているうちの上の段の押し入れにしまってある。
押入れ…荷物が多すぎる。とても三十分で見切れる量じゃない、どうしよう、
不意に肩をポンと叩かれる。「心配するでない、妾達も手伝ってやる」「お雛様」
なんて感動している場合じゃない
「ならなんで最初から手伝ってくれなかたっんですか!?」「なんじゃ、手伝ってやるというのに強情な」憎まれ口叩かれるのもむかつくがこのままじゃ本当にやばい、「お願いしますお願いします、もうガーガー言わないんで助けてください」「そこまでいうなら仕方がない、いくぞ女雛よ」おー!と人形達は意気込んでいる。よし、「お雛様達は下の段を見てください。私は上を見ますから」あと25分、絶対見つける。
したよりも上の段の方が荷物が多い、奥には布団が、手前には段ボール箱が山積みになっており、私は雛人形用の箱が置いてあった部分を足場にする。手前の箱からずらしていく。他の箱の中にはいりこんでるとは思いにくい。きっとどこかに落ちているんだ。しかし、ずらしてはない、ずらしてはないを繰り返して心が折れそうになる。「もう、なんでないの」
焦りで手元が荒くなり、箱の角を潰してしまった。中からは使わなくなった家電製品が見えている。使わないくせに置いとくから大変なんじゃん、と無関係な母にまで怒りの矛先が向いた。もう!とふすまを乱暴に叩いたせいで障子が破れそうになった。その直後
「あったぞー」という声が響きわたった。
下を向くと嬉しそうに扇子を持つ女雛とドヤ顔の男雛が座っていた。あった、良かった。
「拙者のおかげだ、感謝せい」鼻高そうに胸を張るお内裏様。
お雛様の手元には美しい模様の描かれた扇子が握られている。うん、完璧だ。
「ありがとうございました」安堵に涙まで出てきそうになる。
「そろそろ時間じゃ、片付けい」そっか、あと十分「あ、あのっ!」「なんじゃ?」「あのっ、もう消えちゃうんですか」「来年、また母様がしまい忘れたらまた会おう!なんだ寂しいのか」「あの、今まで私を見守ってくれてありがとうございました」
「そうだろう、拙者らの偉大さがよく分かっただろう」この上から目線も数時間で慣れたものだ。「はい!」「来年もまた、きちんと飾り大切に扱うんじゃぞ、この伝統を受け継ぐんじゃ」「わかりました」
この言葉を最後に人形たちは笑顔のまま動かなくなった。私は頭の上をそっと撫でる。『来年もよろしくね』という意味を込めて。きちんと箱に入れ、押入れの奥に仕舞い込む。時刻は午前4時丁度、途端に強烈な眠気に襲われる。「うっ、」くらっとなって、そのままベッドに倒れ込んでしまった。ここから3時間、私は夢を見ずに眠り続けた。
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